Four Tet / New Energy

冒頭のハープの音色はフォークトロニカへの揺り戻しを感じさせるし、M10等のチェンバー・ミュージック風の小品にはそのジャンルのオリジネイターの風格が漂っている。
M2ではハープシコードの音色とヒップホップのビートが絡まり合いレイドバックしたムードを醸出している他、アコースティック・ギター風の弦楽器の多用も特徴的で、更にM6ではトランペットがバレアリックな情景をフラッシュバックさせたりもする。
レトロなシンセの音色が奏でるノスタルジックなメロディとダウンテンポに遠くで聴こえる女声サンプルがBoards Of Canadaを思わせるM3では、時間の経過と共に次々にシンセ・シーケンスがレイヤーされる様に久方振りにテクノの醍醐味を味わうような感覚を覚える。

ダウンテンポ中心の序盤を抜けた中盤ではフロアライクなダンストラックが続く。
M5の4/4のキックのハウスは「There Is Love In You」からの連続性を感じさせるが、サンプリング・ループによる茫漠と霞んだ音像は消え失せて、ギミックの無いよりクリアでストレートな音響にKieran Hebdenの現在のモードが透けて見えるようだ。

M6のバウンシーなベースと変則的なビートは少々フューチャー・ガラージっぽくもあり、M8のブレイクビーツはまるで「Selected Ambient Works 85-92」の亡霊が憑依したようで、UKテクノの黄金時代を懐かしむような感覚がある。
M9の畝るシンセやギターのアルペジオには、まさかとは思うがトランス・リヴァイバルとの共振を疑いたくなったりもする。

革新的と言える要素は何処にも見当たらず、タイトルの割りにノスタルジックで退行的な印象は拭えないが
センチメンタルなメロディがGold PandaやDorian Conceptの作品と同質のエモーションを喚起させる一方で、多彩な楽器音とエレクトロニクスを融合させる手腕に稚拙さは微塵も無く、Bonoboの近作と並んでベテランの力を認識させられる一枚ではある。