Beck / Colors

クリアな音響や矢鱈とアタックの強い明瞭なキック・ドラムを始めとしたメジャー感のあるプロダクションは、「Mellow Gold」や「One Foot In The Grave」から凡そ隔世の感がある。
ルーツ・ミュージックの盗用も、サンプリングによるエディット感覚も、ノイズにカテゴライズ可能な音色も皆無で、とてもあのBeckの作品だとは信じ難い。
何処かThe Policeを思わせるニューウェイヴのような、ネオアコのような、結果何ら変哲の無いギターポップ調のM2やM5、大味なギター・リフがまるでWeezerパワーポップ風のM3等、俄かには受け入れ難い程に明け透けにポップに振り切れている。

とは言え「Hunky Dory」のDavid BowieのようなM4等のグラムロック風の曲調は「Modern Guilt」に通じなくもないし、「Let’s Dance」のような、Princeのような80’sマナーのディスコ・フレイヴァー漂うM6等、部分的には「Midnite Valtures」を彷彿とさせる曲もある。
印象は全く異なるが、M5は「Guero」にだって「Girl」のようなポップ・チューンがあった事を思い起こさせるし、そもそも「Mellow Gold」以降でBeckがポップでなかった事など一度だって無かったではないか。

Beckくらいのキャリアになると一見セルアウトに思えるくらいが却ってラディカルだという意見もあるかも知れない。
確かにDavid Bowieだって傑作ばかり残してきた訳ではないし、ある程度のキャリアを重ねれば自らの内に余白が枯渇するのは当然で、そうなれば最早試行錯誤からしか新しいものを生み出す事が出来ないのも確かだろう。

などと言うのもBeckが作るメロディが好きならばこそ、一概に駄作と切り捨てられない思い故の言い訳だが、やっぱりBeckがこれをやらなければならなかった理由が腑に落ちず、居心地の悪さが消えることはない。
どうもPharrell Williams「Girls」が重要なインスパイア源であったらしい事を踏まえると、些かタイミングが遅過ぎたとも言え、次は唯一消化し易く、安心感のあるM7のBeck流トラップ路線でフルレングスを聴いてみたい。