Tune-Yards / I Can Feel You Creep Into My Private Life

エレクトロニックな四つ打ちビートと大仰なストリングスに乗っけから戸惑いを禁じ得ない。
M7のドラムマシンによる8ビートに至っては少しオールドスクール・エレクトロみたいで、アルバム全体を通じてビートに当世風の要素は無く、そのチープネスはSt. Vincentのエレポップ路線にも通じる。

「Whokill」にもブラスバンド的な音色はあったが、その存在はチャイルディッシュなイメージを補強する類のものであったのに対し、本作で導入されたストリングスやサックス等の管弦楽器の音色はよりソフィスティケートされており、更にM10等はチルウェイヴ的にも80’sAOR的にも感じられる。
「Whokill」の奔放で無垢な音との戯れ方には本気で子供の情操教育に打って付けとまで感じたものだったが、本作の成熟とまでは言わないものの、やや方向性の定まらない混乱した感じは情緒不安な思春期を思わせたりする。

エレクトロ・ポップが前景化したのに比例するようにワールドビート的な意匠は相対化されているものの、ファンキーなベースラインが曲を引っ張る構成は相変わらずで、M9やM11のパーカッシヴなリズムやトライバルなポリフォニー等は以前のイメージに近い。
特異な声で発せられるリズミックでソウルフルな歌唱やユニークなハーモニーの快楽指数も相変わらず高く、スローなロック・バラード風から突然ウォブリーなベースが踊り出すM8ような訳が解らない極端な展開も魅力的で、Tune-Yardsのサウンドのストロング・ポイントが損なわれた訳では全くない。

大胆なエレクトロニクスの導入にしたってSt. Vincentのようなマス・アピールを感じさせるものではまるでなく、寧ろLiarsがエレクトロニック路線を採った時のような良くも悪くも歪さを感じさせるという点で、ただ単に新しい機材・素材や方法での創作意欲や好奇心に起因するものだろう。
確かに居心地の悪さは無くもないが、Merrill Garbusの好奇心の旺盛さや自由さが伝わってくるという意味で好感が持てるアルバムではある。