Nine Inch Nails / Bad Witch

サイバーパンク的なM1こそ未だ嘗てのセルフ・ディストラクティヴなイメージから一変して、憑き物が取れたように至って普通のロックと化していくようだった「With Teeth」以降の感じを残している。
M2は時折破綻を隠さないローファイな生ドラムの8ビート(クレジットからは窺い知れないが、Trent Reznor自身によるものだろうか)こそ珍しいものの、古くからのファンを喜ばせそうなクワイエット・ラウド・ダイナミクスが「The Downward Spiral」を彷彿とさせもする。

以降は一転して嘗てなく実験性が前面に押し出されており、M3なんかはロックの付かない純粋なインダストリアル回帰のようにも聴こえるし、M4もアシッディなベースとリニアな生ドラムの8ビートにサックスが取り留めなく絡む異色作。
M5のノイズ・タペストリーは「The Fragile」のようだが、叙情的なピアノの存在が無い分何処か軽く湿り気は無い。

M6ではサックスに加えてヴィブラフォンの音色までもが登場し、これまでのNIN作品にはほぼ皆無と言って良いジャズ的な要素が散見される。
Trent Reznorからは想像し辛い低音でじっくりと歌い上げるような歌唱法からは、David Bowie「Blackstar」からの影響というのも解らなくはない。

どれだけラウドであっても几帳面に整理整頓されていた音響/ミキシングは妙にカオティックでローファイになった印象があり、商業作品としての気負いは余り感じられず、スタジオでの実験の成果を気紛れに発表してみたといった程度のさり気なさに寧ろ好感が持てる。
完璧主義者のイメージからは良い意味で意外な乖離があり、Stephen Malkmusと言い最近のオルタナティヴ世代の尖った老い方には非常に興味深いものがある。