Blood Orange / Negro Swan

ゴスペルからネオ・ソウルまでのオーセンティックな黒人音楽とシンセ・ポップの要素が入り混じった音楽性は、宛らD'AngeloとFrank Oceanの中間を行くようだ。
M14ではThundercatに通じるフュージョン、M15ではAriel Pinkを想起させるAOR風までが披露されており、モダンな雰囲気を醸出している。

倍音を多く含んだシンセのアンビエンスは如何にも昨今のオルタナR&Bに相応しいサウンドだが、M7の高速ハイハット使いにも関わらずビートにトラップの要素は希薄で、他の凡百のものとは一線を画した印象を受ける。
ディレイで変調されたM4の奇妙なハット音や、異なるドラムマシンによるビートをパッチワーク的に組み合わせたようなM10等、音色自体はオールドスクールでチープな感覚さえあるが、不思議なオリジナリティで溢れている。
M12のサイレンのような上昇するシンセと狂ったピアノの競演等は独創的で、何処かJames Blakeにも通じる才能を感じさせる。

途中でころころと姿形を変えるエキセントリックな曲調、インタールードとの境界線は限りなくファジーで、曲の切替りも極端で、ミックス・テープを聴くような感覚もある。
これ見よがしではなく、そこはかとないスラップスティックさが漂っており、痛々しい程にオルタナティヴである事を自らに課すようなMiguelとは対照的に至ってナチュラルに狂った感じが好ましい。

ソウル/R&Bシンガーとしての歌唱力は実は下手なのではないかと思わされる瞬間もあり、意図的な破綻なのかどうか判断し難いところもあるが、黒人音楽の新時代を象徴するプロデューサーとしての才能は疑いようがない。
このような才能がFKA TwigsからMariah Careyまで幅広くプロダクションに携わる現状は、インディ/メジャーを問わない昨今のR&Bの面白さを物語っている。