Tim Hecker / Konoyo

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最近改めて「Virgins」を聴いて
冒頭の音が余りに本作のオープニングを飾る笙の音色に酷似している事に驚いた。

これはTim Heckerの生成するデジタル・シンセの音が偶然笙に似ていたというよりも
笙が発する独特の倍音に楽器から音が鳴っているというより寧ろ
笙という「機器」を通じて音が生成されているような感覚があるからだろう。

Tim Heckerがこの笙の音色に魅せられた事を発端に本作が制作されたであろう事は想像に難くない。

確かに笙の他にも篳篥や琴に鼓といった和器楽の音をはっきりと認識出来るし
各トラックのタイトルからは
「Konoyo」=「This Life」から「Anoyo」へと至る
一連の過程を描いた作品である事が推測され
楽器のみならず死生観といった日本文化そのものから着想を得て
制作された事は間違いないように思われる。

但し全てのトラックで決まって和楽器がフィーチャーされているという訳でもなさそうで
M5ではチェロも使用されている。

雅楽を意識させる瞬間は殆ど無く
特段雅楽とのコラボレーションという感じもしないし
テーマに反してオリエンタリズム微塵も感じない。

寧ろ本作に於ける和楽器の音色は
特有の音階から切り離され電子音による補助を受けた結果
新しい響きを獲得しているようにも感じられ
Oneohtrix Point Never「Age Of」に於ける
チェンバロといったクラシカルな西洋楽器の音色の再発見と共振するようでもある。

特にやはり吸って吐いても同じ音階が出せるという
笙の構造的特性に由来する持続音の上下への遷移は非常にユニークで
Tim Heckerの生成するシンセ音と同調する事で我々日本人が知っているその音
(例えば宮内庁の年中行事等をイメージさせるそれ)とは全く異なる響きを獲得しており
単なるオリエンタリズムを超えた音響の化学的アプローチが齎す
異文化混交による革新の好例と言って良いだろう。