Travis Scott / Astroworld

f:id:mr870k:20190430023248j:plain

シングル・ヒットしたM3のアンセミックなイントロには流石に惹き付けられるものがあるし、M7の如何にもTame Impalaなオープニングには昂揚感もあるが、以降ジャジーなビートが異質なラストM17まではトラックのヴァリエーションも乏しいし、然したるフックも無く驚異的なまでに一本調子で非常に退屈。
Travis Scottの声質は至ってノーマルでフロウに引き出しも少なく、ラップ自体に聴きどころは極めて少ない。
時折耳を覚醒させる瞬間はJames Blakeの歌声だったりStevie Wonderによるハーモニカだったりと他人によって齎されるものばかりで、何処かで指摘されていた事ではあるがTravis Scott自身の存在感は限りなく希薄。

トラップにアンビエントにスクリューにオートチューン、10年代以降のUSヒップホップを象徴する要素が満載で、現在のアメリカのヒップホップのメインストリームど真ん中といった感じのサウンドに率直に言って流石に飽きは否めない。
R&Bで言えば2017年のSZA「Ctrl」が一つの集大成を感じさせたものだったが、翌年の2018年にはJanelle MonáeにしろKali Uchisにしろ、トラップ+アンビエントの潮流から逸脱する作品が多く、そこから遅れる事1年で本作がヒップホップの一つの時代に区切りを付ける事になるのだろうか。

仮にそうだとしたら次のフェーズの始まりを告げているのは、本作とは対照的に全く新しい価値観の萌芽さえ感じさせるEarl Sweatshirt「Some Rap Songs」かも知れないし、やはり意識的にトラップを忌避しているように感じられる最近のKanye Westがトリガーを引いているのかも知れない。
(何の抵抗も無く賞賛する気にはなれないが、その時流を掴む感性は流石だとは思う。)

本作はJames BlakeがモダンなUSヒップホップに寄った「Assume Form」に通じるメランコリーで覆われているが、Drakeに象徴される北米のヒップホップに於けるメランコリアの時代が終わり、もしかすると今度はディプレッションの時代が到来しようとしているという事かも知れない。
何れにしてもダウナーである事には変わりがなく、当面90’sマナーのパーティー・ラップ等は望めそうにない。