Kelsey Lu / Blood

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もっとR&B寄りのサウンドを予想していたが、ジャズとチェンバー・ミュージックとエレクトロニカとモダン・クラシカルとアヴァンギャルドをポップにコーティングしたようなサウンドを総合して、行き着いたイメージが最も近いのがUaというのに些か驚いた(M5やM11なんて特に)。
この音楽が高評価を得る現在の欧米のシーンなら、本気で「泥棒」以降のUaが発見される素地があるのではないだろうか。
等と思いながら聴いているせいか、若干声(特に伸びやかな低音域の発声)まで似ているような気がしてくる。

ハープの音色は決して唯一絶対の存在ではないものの、M2やM13はJoanna Newsomを彷彿とさせるし、多層的な声のレイヤーとシンセ・アンビエンスが溶け合うM9はポストJulia Holter的でもある。
M10のポリフォニックなアンビエント/ドローン・ポップ調の10ccの秀逸なカバーのエクスペリメンタルとチージーさが同居する様は、Weyes BloodがThe Carpentersが想起させるのと同質の感覚を齎す。

ビートは基本慎ましやかだが、M3のようにFKA TwigsやKelelaを思わせるややエレクトロニック寄りの曲もあるし、そしてストリングスと電子音の組み合わせには勿論Björkを想起せずにいられない。
突如として吃驚するほどチージーなM7はやや蛇足に感じなくもないが、リニアなビートとスムースなベースラインからはLittle Simz「Selfish」にも似た印象を受ける。

歌唱のヴァリエーションは多彩で、想起させるイメージが多様な分、その表現の肝要の部分が見え辛いのも確かで、その言わばサウンドに於けるアイデンティティの欠落は、例えばMoses Sumneyのような新世代R&B(というような抽象的で、要するに何も言っていないに等しいカテゴライズが、逆にその存在の認識不可能性を端的に言い表している)に相通ずるもので、極めて現代的なアーティストの在り方のように思える。
このリリース元が、4ADやJagjaguwarなら解るが、Columbiaのような大企業というのが如何にも現在のオルタナ/アヴァンR&Bバブルを象徴している。