立ち上がりこそダウナーだが、エキセントリックなM3で漸くギアが入る。
総じて地味な印象だが、幾つかのキラートラックがアルバムのポップネスを支えており、特にM7~M9の流れは白眉。
「Atrocity Exhibition」の得も言われぬドラッギーなフリーキーさは減退した感があるが、どちらが好みかと問われれば断然本作を支持する。
Q-Tipプロデュースという事で、スペイシーで過剰なエフェクトには確かにあの素晴らしいATCQの最終作「We Got It From Here… Thank You 4 Your Service」に通じるサイケデリックな洒脱さがある。
M3やM7のコード感は如何にもQ-Tipだし、M8等は「The Love Movement」の続編のようで、ATQCの新作と言われたら信じてしまいそう。
唯一Danny Brownのラップに異物感が残るが、それもBusta Rhymesの代役だと仮想すればすんなり腑に落ちる。
2016年のATCQがそうであったように、ビートは殊更90’sリヴァイバルを感じさせるようなものではまるでないが、それでもサンプリングやブレイクビーツの復権を感じさせるには充分で、元よりDanny Brownとトラップの親和性がそれほど高かった訳ではないものの、完全にトラップの時代が終焉を迎えた(そしてやはりTravis Scott「Astroworld」は墓標だった)事を実感させる。
M4はJpegmafia作のトラックにRun The Jewelsと共にラップを乗せたポッセカットで、2000年代前半以来2度目のオルタナ・ヒップホップの黄金期が訪れたのかも知れないと思わせる。
今や所謂ゴールデンエイジの一画だが、考えれば1990年の時点ではATCQこそオルタナティヴだったはずで、2010年代の終わりにオルタナティヴ・ヒップホップの歴史が集約されていくような感慨がある。
では対して現代のメインストリームとして例えばPost Maloneみたいなものを仮定してみると、最早完全にネガポジが逆転しているのではないかとも思えてくる。