Bonnie Prince Billy / I Made A Place

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M1やM3のストレートなカントリーはまるでディズニー・ランドのその手のエリアで流れていそう。
M2やM5はBeck「Sea Change」に近い感触のフォークだが、アルバム全体を通して沈鬱な印象はまるで無く、その軽快さやフレンドリーな佇まいは寧ろ「Mutations」の方に近いだろうか。
(因みにM4には「One Foot In The Grave」が最もしっくり来る。)

Will Oldhamはオルタナ世代にとっていつかは避けて通れない通過儀礼のよう、という意味でDaniel Johnstonと並ぶ存在で、無意識に耳は何とか奇異な部分を探そうとするが、音像にも歌声にもローファイさは皆無で、気を衒ったところはまるで無く、オルタナもフリークも付かない完全なるフォーク/カントリー・アルバムと言って差し支え無い。

M4やM8のようなシンプルな弾き語りもあるにはあるが、大半の曲で女声コーラスを含めた多彩な器楽音がフィーチャーされており、そのアンサンブルは単純に愉しい。
M1の軽やかなバンジョーにM2の優雅なフルート、M3のフィドルにM9のメロディカ等、曲毎に主役を担う音色にも多様性があり、その良さを言葉にするのは難しいが、その必要も余り感じなくなる程にただ豊潤で美しい。

Will Oldhamの歌声が様々な器楽音と愉しげに戯れているような親密な空気がアルバムを覆っており、その名前から勝手に想像するような孤独な音楽ではまるでない。
何にせよ要するにオーセンティックでウェルメイドには違いないが、この円熟には単なる老いでは片付けられない重みと好ましい軽快さが共存している。