Denzel Curry / Zuu

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音色自体は紛れも無くトラップだが、その手のサウンドにしてはサブベースにしっかりとリズミックな主張がある。
M1やM6こそTravis Scottを彷彿とさせるダウナー系で、余り関心はしないが、それでもリズムはバウンシーで退屈させない。
トラップの終焉を実感していたところにいきなりこのような作品と出会うとは些か困惑を禁じ得ない。

M3のGファンク的なメロウネスはやや蛇足な感があるけれども、特にM9・10から凶暴なベースが歪み唸りを上げるM12へと到る感傷の欠片も感じさせない流れは最近のエモラップの染みったれたメンヘラ・ダウナー路線に飽き飽きしていただけに痛快である。
躁的で猥雑で無軌道な若さで横溢しており、誠に馬鹿みたいな感想だがとにかく元気があって良い。

Flying Lotus「Flamagra」に於ける客演が正にそうだったようにトラックによってはRun-DMCばりのオールド・スクールなフロウとトラップの組み合わせが却って新鮮だったりもする。
M2やM10で差し込まれるスクラッチの断片やM6冒頭のスキット、ユニゾンによるコーラスが齎すパーティ・ラップ感も何処か懐かしい。

更にはジャケットのベースボール・シャツにオープンカー、そしてGang Starrや初期Beastie Boysを思い出させる猛烈に80’s臭が漂うロゴ等が一体となってトラップ世代によるミドル・ スクールの復興をイメージさせる。
そのドレッド姿からはまたFlying Lotusをヒップホップに引き込んだのが「Doggystyle」であった事が連想させられるが、サウンド面では単純なGファンクやブーンバップ回帰にのみ偏る事はなく、イメージ戦略を含めて興味深い存在だと思う。