Hot Chip / A Bath Full Of Ecstasy

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シンセの音色はオールドスクールだが、そのポリフォニックなレイヤーの安定感には職人技的な貫禄すら漂う。
故Philippe Zdarがプロデュースで関与しているせいなのか、シンセ・ベースが存在感を放っており、特にM4はフレンチタッチ的と言えなくもないような気もするし、特段これまでと変わっていないような気もする。

これまで以上にシンセ主体のサウンドである事は確かで、過去のアルバムで散見された器楽音主体のPaul McCartney風ポップと呼べそうなのはM3くらいで、それにしたってオートチューンでエレクトロニックに色付けされており、ピアノを除いてはギターを始めとした生演奏の音は殆ど聴き取れない。
尤も元からそんなにギターに存在感があるバンドではないが。

M5のフロアライクなディープ・ハウスを始めとして、アルバム全体としても4/4のキックのハウス/ディスコが基軸となっている印象だが、Kraftwerkのようなチープなビートがアウトバーンを小型飛行機に置き換えたとでも言えそうなM8のような楽曲の存在もあり、一概に単純で享楽的なダンス・アルバムという訳でもない。

これまでにも増してセンチメンタルなメロディからコンシャスなテーマの存在をより強く感じると思ったら、Alexis Taylorによればブレグジットやトランプ政権に纏わる状況からの救済がテーマとの事らしく、確かにパンデミック真っ只中の現在だからこそより切実に響くものがあるし、どうしたってPhilippe Zdarの死と結び付けずにはいられない。