Soccer Mommy / Color Theory

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先ず思い出したのはLiz Phairがメジャーなプロダクションに舵を切った1998年の「White Chocolate Space Egg」だった。
ただ同作が確かにウェルメイドではあったが、90’sのUSオルタナティヴ・ロックがより広範なポップのイディオムを取り込み拡散してゆく最中のドキュメントとして、例えばPavementの傑作「Terror Twilight」等と並べて聴く事も出来たのに対して、本作からはまるで同時代性も批評性も聴き取れない。

メロディ・センスは確かにLiz Phairを彷彿とさせ魅力も解る。
ストレートアヘッドであるという意味では「White Chocolate Space Egg」以前の作品よりも思い切りセルアウトした「Liz Phair」に近いか。
ギター中心の旧態依然としたバンド・サウンドにキーボード等で装飾を加えただけのフォーク・ロックといった趣きで、シンプルで嫌味も全く無いがそれ以上に毒気も何の変哲も無い。

一体どういった層に歓迎されているのかさっぱり想像が付かず、少なくとも中年にはノスタルジア以外に手を出す理由が見当たらない。
要はだったらLiz Phairを聴くよという話だ。
じゃあCourtney Barnetはどうなのだと言われると確かにその差はほんの少しのユーモアと言う以外、自分でも説明は付かないが。

強いて言うならば、ストリングスやシンセによる残響処理やフィールド・レコーディング等のポスト・プロダクションが却って凡庸な印象を与えている嫌いはある。
今更特段サウンドに特異性を与えてくれはしないそれらの装飾の類に、敢えて手を出さなかった事で却ってアイデンティティを手に入れたという意味では、Courtney Barnetは賢明だったと言えるだろう。