Moses Sumney / Grae

 

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シンセ・ベースやホーンにユニークな電子音/エフェクトの類が絡みエクレティシズムを醸し出すM2はDirty Projectorsそっくりで、そのファルセットが余りにDavid Longstrethに似ていて少し吃驚した。
ここでのDaniel Lopatinの存在感は「Dirty Projectors」に於けるTyondai Braxtonを連想させる。

Tyondai Braxtonと言えば、カオティックなM5やM11等はポスト・ロック/マス・ロック的で、ハープとダイナミックなドラム、ベースが融合したM4は、オルタナと言うよりもプログレR&B(かどうかは最早判らないしどうでも良いが)といった趣で、何処かグラム・ロック的な感覚もあり、Yves Tumorとの共振も感じさせる。
中盤~後半ではぐっと音数が減り、Daniel Lopatinの関与も頷けるアンビエント風、或いはJames Blakeに通じる雰囲気の弾き語りもある。

少なくともアルバム前半は、余りの耽美性に少し胸焼けを覚える程だった前作から一転し、オプティミスティックな軽さやともすればユーモアさえ感じさせ、冗長さは吹き飛んでいるし、ウィークポイントに感じられたヴォーカルの低中音域も完全に克服されている。
James Blakeに似て詰め込み過ぎの癖があるのだろうか、流石にアルバム2枚分は長く中弛みしなくもないが、相当の力作であるのは間違いない。

Daniel Lopatinの存在感が際立ってはいるものの、ThundercatやJames Blakeといった馴染みの面子に加えて、LAジャズからBrandon Coleman、UKジャズ界隈からはNubya GarciaにShabaka Hutchings、変わりどころとしてはJill Scottまでと、2010年代以降のエレクトロニック・ミュージックにR&B、そしてジャズの最先鋭が一同に介しており、それらの交錯点としてのMoses Sumneyの重要性を突き付けられるようでもある。