Kelly Lee Owens / Inner Song

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エレクトロ・ポップ調のM2が中盤で表情をがらりと変えて、M3まで続く臆面も無くアシッディなテクノは、始まったばかりの2020年代の行末を予感させるようなところはまるで無いがとても良い。
コロナ禍の反動は勿論あるだろうと思うが、滅多に無い事に久々にクラブに行って踊りたい気分にされられる。

M4は一転アンビエントを呑み込んだモダン・エレクトロニックR&BトリップホップでFKA Twigsにも通じるし、M6やM10のエキゾティックなシンセポップは声質も相俟ってKaitlyn Aurelia Smithを彷彿とさせたりもする。
(Kelly Lee Owensの方がもっとビートが強いしポップス然としてはいるが。)

M7ではまさかのJohn Caleが歌声を披露しているが、Radioheadとのコネクションを含めてロック・リスナーへの訴求力が高そうという意味でJon Hopkinsに近い存在感を感じたりもする。
事実M8のブリーピーなビートなんかは「Singularity」そっくりだ。
ダンス・トラックに於けるビートはストレートなイーヴン・キックが多く、M5のトランシーなシンセの旋律のレイヤーは最近だとBicepなんかにも通じる一方で、M9のダウンテンポが「Amber」時代のAutechreを強烈にフラッシュバックさせたりもする。

様々なスタイルを援用してエレクトロニック・ミュージックの歴史を俯瞰するようなところは Floating Points「Crush」と共通していて、そう言えばM1後半の硬質でアタックの強いスネアによるIDMのビートなんかは確かに通じるところがある。
決定的なトレンドを欠いた時代の優れたエレクトロニック・ミュージック・アルバムは、少なからず総括的にならざる得ないということだろう。