冒頭の2曲はトリップ・ホップ風で、リヴァービーな音像と唸るサブベースの重低音がKevin Martinの諸作、特にKing Midas Soundと、GrouperやInga Copelandがヴォーカルを務めたThe Bugの「Angels & Devils」を思わせる。
何処かファルセット主体の歌声にはFKA Twigsとの類似性も見出せる。
気候変動をテーマにした黙示録的なコンセプト故か、前作の言わばGrimes版のバブルガム・ポップ的な享楽性とは対照的なディストピックでゴシックなムードで覆われている。
単調なベースがSmashing Pumpkinsを彷彿させるM7や、Nine Inch Nailsのパロディのような日本盤ボーナス・トラックのM11では、より直接的なゴス(の影響を受けたオルタナティヴ・ロック)の要素も散見される。
とは言え終始鬱々としているかと言うとそんな事はなく、アコースティック・ギターにフィドル、バンジョーの音色が意外なカントリー・ポップ風のM3はTaylor Swiftのお株を奪うよう(かどうか実際のところ良く知らないが)だし、M4では漸くGrimesらしいエレポップも登場する。
ボリウッドかエチオピアン・ポップスと、Roni Sizeみたいな(懐かしいThe Qemistsを思い出したりもする)オールドスクールなドラムン・ベースを掛け合わせたようなM5も単純に盛り上がる。
マイナー調のメロディから一転、柔和でユーフォリックな感じさえあるM10(本編のラスト・トラック)が恰も暗闇に差し込む光のような効果を生んでいる。
タイトルが「Idol」ではなく「Idoru」なのが、ジャパニメーション好きのGrimesらしいと同時にコンセプチュアルな意図も感じさせる。
重いテーマでも沈鬱一辺倒にならず、トータルで聴かせるポップ・センスは流石だと言えよう。