Jay Electronica / A Written Testimony

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Louis Farrakhanのアジテーションに広島への原爆投下を伝えるアナウンス、アルバムの随所で差し込まれる子供達の歓声(Boards Of Canada「Music Has The Right To Children」を連想させる)といった要素が、何らか通底するコンシャスなコンセプトやストーリーテリングの存在を感じさせる。

全編に渡ってJay-Zが我が物顔でラップしているのは純粋な応援のつもりだろうけれども、Jay Electronica自身の声もフロウも特徴的なところがまるで無いせいもあって、完全に主役のお株を奪ってしまっている。
念願のファースト・アルバムにも関わらず、Jay Electronicaが気の毒としか言いようがないが、悔しいかな凄みさえ感じさせるM7の圧巻のフロウを前にしては、Jay-Zを非難したい気持ちも萎んでしまう。
本人作を含めて個人的にはJay-Zのベストの出来と言って良い。

エキゾティックな上物に90年代のJ Dillaを思わせるビートが乗っかるM2、James Blakeとの共作による、ボサノヴァのリズムと相反する激しいビートに扇情的なサイレン音を組み合わせたM7等、Jay Electronica本人の手によるトラックには佳曲が多く、ラッパーとしてよりもトラック・メイカーとしての優秀性が印象に残る。

名だたる外部のプロデューサー達によるトラックも充実しており、Swizz BeatzとHit-Boyが手掛けたM3は低空飛行するサブベースと裏拍で刻まれるハットが格好良い。
The Alchemist作のドリーミーなM4、KhruangbinによるブルージーなM10では、敢えてヒップホップの心臓であるビートを控え目にして背景化させる事で稀有なリリシズムを獲得するのに成功している。
個人的にはMac Miller「Circles」と合わせて2020年のベスト・ヒップホップ・アルバム。