Julianna Barwick / Healing Is A Miracle

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クワイアのようなM1を始めとして、やはりJulianna Barwickの声は段々と歌に近付いているように思える。
低周波のシンセ・ドローンは無視出来ない要素ではあるものの。)
本作に限って言えばEnyaと較べられるのも無理は無いようにも思え、要はエクスペリメンタルとは程遠く、けれどもそれはそれで悪い事でもない。

それでいて確かにアンビエント・ミュージックでもある、というのも既にもう10年前にJulia Holterが「Ekstasis」でやっていた事ではある。
残響が醸出するアンビエンスは、ついさっきまで人間の声だったとは思えない程、と言うのもGrouper「Grid Of Points」に感じたのと全く同じで、要する新たな発見は無いが、それでも性懲りも無く耳は驚かされる。
声と認識出来るのは音階が変化している最中のみで、発声が止み残響と化した瞬間から、微かな余韻を残しつつ、しかし急速に体温を失うかのように無機質になっていく様は、まるで死んだばかりの身体をイメージさせる。
それは声という音の持つ特殊性、即ち他の楽器では出せない特有の揺らぎに起因するものであるだろう。

ポップスに接近した印象は、Sigur RósのJónsiとの共作であるM4で最も顕著で、ある種トリップ・ホップ的、とまでは言わないまでも、明確なキックとスネアを伴ったビートやシンセ・アルペジオは限りなくポップ・ソングのフォーマットに沿ったものと言って良い。
一方でNosaj ThingとのM8はその割にビートが前面に押し出されている訳でもないのが不思議と言えば不思議だが。 

珍しくダークな曲調の低周波の電子ノイズに侵食されるようなM6は本作中最もエクスペリメンタルな印象で、総じて言えば器楽音を積極的に採り入れた印象の強かった前作に対して、本作は比較的エレクトロニクスの比重が高いアルバムだと言えるかも知れない。
(と言っても程度の違いの問題ではあるが。)