Paul McCartney / McCartney III

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ロックンロール以前のルーツ・ミュージックを伴奏にして老いに寄り添うようなBob Dylan「 Rough And Rowdy Ways」と較べると確かに若々しいとは言えるかも知れない。
とは言え老人が作った音楽だからと言って、若さだけで称賛するのは作り手に対して失礼極まりない。 
という前置きの上で敢えてドライに言うならば、カレント・ミュージックとして聴く価値のある作品だとは全く思えない。

老人の作品という面では、David Bowie「Blackstar」が個人的に一つの基準になってしまっているところがあって、Paul McCartneyDavid Bowieでは世代が一つ違うので単純比較はフェアではないかも知れないが、「Blackstar」にあったような、現在進行形の音楽に対する好奇心や、音色の面でも形式の面でも新しい事をやろうという気概は感じ取れない。

長くThe BeatlesPaul McCartneyの音楽に親しんだ人達からすると、このある種の力の抜け方が好ましく響くのも解らなくはないが、自分のような門外漢が聴いて面白いと思えるようなところは何も無い。
ジャム・セッションを大したアイデアも無く垂れ流したような冗長なM1や、自己満足としか思えないM5のブルーズ・ロックは、穿った感想であるのは承知の上で、どうも所詮セレブリティの道楽という感じがしてしまう。

チープなシンセ(多分)・ブラスがグラム・ロック風のM2、牧歌的なポップ・センスを滲ませるM3等、決して悪くない曲もあるにはあるが、不思議な程に一切の深みを感じない、もっと言えば軽薄な感じさえする歌唱はどうしても今一つ好きになれない。
その印象は音楽ドキュメンタリー系の映画で良く観る、お調子者のセレブ爺さんのイメージと見事に被る。