何処か未熟さを残したJay-Zみたいな声色自体は、例えばSlowthaiなんかと較べてしまうと魅力に乏しいし、余りラップが巧いとも思えない。
最近ではHeadie Oneに限った話ではないが、特にアルバム前半に顕著な歌うようなメロディアスなラップはもう流石に食傷気味で、加えてバックトラックもベースラインもメロディ過多で若干鬱陶しささえ覚える。
前半のバックトラックは良くあるゴシックでメランコリックなアンビエント風が大半で大して面白味は無いが、ヒューストン産のトラップと比較すればサブベースがリズミックで聴き飽きない。
流石はダンス・カルチャーの国が産んだヒップホップの最新形、と言う程目新しい要素がある訳ではないものの、とりあえずトラップとグライムの合いの子みたいなサウンドだと言ってみる事は出来るだろう。
Slowthai「Tyron」同様にアルバムは折り返し辺りでぐっとメロウネスを増していく。
サブベースは引き続き存在感を保っているものの、UKドリル的なサウンド・シグネチャは希薄になり、ピアノとR&B的な女声ヴォーカルがリリカルなムードを醸出するM20等は、Kano「Hoodies All Summer」を思い起こさせたりもする。
M17等はWiley「See Clear Now」を彷彿させ、メロウなポップス路線もまたグライムの伝統の一部である事を思い出すが、それ一辺倒という訳でもなく、ほぼサブベースのみが歌うM15や、レイドバックした上物とエレクトロニカ張りの忙しないハットの対比が面白いM16等、引き出しの多さがUK産の良いところだったと再認識させられる。