Slowthai / Tyron

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想像を遥かに超えるスピードで過去のものとなったダブステップに較べて、グライムは実にしぶとく生き残り、見事に世代交代を果たしたものだと思う。
現在のスターダムの筆頭は勿論StormzyとSteptaだろうが、実はWileyやDizzee Rascalオリジネーター世代との繋ぎ役で、本格的なゴールデン・エイジは寧ろ正にこれから到来するのではないかという予感もあり、このSlowthaiは確実にその主役候補の一人だろう。

とは言え狭義のグライムの枠は逸脱しており、荒涼としたアブストラクトなループとトラップ風のハットといった要素よりも、強靭なサブベースとアタック強めのキックが引っ張るDisc1は寧ろUKドリルとの共振を感じさせる。
冒頭のM1やM2なんかは、トラック自体はそこら辺のトラップと大差無いようにも思えるが、少しDanny Brownを彷彿とさせるフリーキーな声には充分に際立った個性がある。
(ついでに全くの蛇足だがFlea似のビジュアルも良い。)

Earl Sweatshirtにも近い、単なるファッションとしてのデプレッション以上の含蓄を感じさせるDisc1最後のM7を契機にして、アルバムはがらりと表情を変えてぐっとメロウになり、Disc2では冒頭のM1を始めソウルやジャズのサンプリングによる上物やヴォーカル物のコーラスがトラックを引っ張る展開となる。
D2-M2のジャジーなピアノやD2-M4のフォーキーなギター等、アコースティックな音色とラップとの対比も鮮やかだ。

Mount KimbieとJames Blakeとのコラボレーションで話題になったM6は、朴訥としたリヴァービーなピアノとJames Blakeの相変わらず不気味なヴォーカルによるコーラスが幽玄なトラックだが、後半のほんの短い間にコード進行が変わって差し込まれる、仄かだがしかし確かに感動的な余韻を残す女声ヴォーカルのサンプルは本作のハイライトの一つだ。
前半のコントラストが後半の叙情を際立たせている感もあり、期待を裏切らない充実作だと言えるだろう。