Tune-Yards / Sketchy.

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エレクトロ色の強かった前作に較べて、シンバルを殆ど用いないブレイクビーツ風のプリミティヴな生ドラムのサウンドが復活し、更にはシンプルなベースがより前面に押し出される事で「Whokill」に通じるファンクネスが横溢している。
とは言え同作の特徴であったエスニシティは抑制されており、インタビューによればエスニック/トライバルな要素を無邪気に借用する事への逡巡もあるようだ。

勿論Merrill Garbusの歌声や独特のメロディ・センス、ファニーな装飾音等の魅力は健在だし、曲によってはこれまでと同様にピアノや管楽器がフックになっているものの、ドラムとベースのリズム・セクションが前面に出てよりタイトになった印象を受ける。
喩えるなら骨と皮のみで成立しているようとでも言うか。

代わりに今までは余り感じる事のなかった湿度、言い換えれば叙情性が表出したような印象もある。
M3のコーラスに於けるベースラインのコード転調は、最初Tune-Yardsにしては些かストレート過ぎるようにも思われたが、聴き込む程にしみじみとした感動を呼び起こす佳曲。
M7も大らかな抱擁力やポジティヴなメッセージ性を感じさせるし、仄かに憂いを帯びたM10も良い。

些か出来過ぎた話ではあるが、奔放で無垢な好奇心の発露のようだった「Whokill」が幼児期で、前作「I Can Feel You Creep Into My Private Life」が思春期の混乱を表象するようだったのに対して、本作は間違いなく成熟や思慮深さ、つまりは大人になったTune-Yardsを想像 させる。
それでもアルバムの終わりにはフリーキーな叫び声(Merrill Garbusの妹によるものとの事)を差し込まずにはいられないところが如何にも彼等らしく微笑ましい。