Floating Points Pharoah Sanders & London Symphony Orchestra / Promises

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確かに漫然と流しっ放しにしている分には地味で、耳を持っていかれるようなキャッチーなフックも無いが、どっぷりとその音世界に身を浸す事で得られる聴取体験は豊潤だ。
集中的聴取が要求されるという意味ではやはりSam Shepherdらしい作品だと言える。
Pharoah Sandersが「Elaenia」を聴いて関心したというのが本作の契機だそうだが、確かに「Elaenia」のある部分を切り取って培養した上にPharoah Sandersのテナーを乗っけたような感覚がある。

決して浮いているという意味ではないが、「Elaenia」で感じたような驚異的なまでに精緻な音響操作の影は薄く、寧ろラフな印象を受ける。 
M4ではPharoah Sandersスキャット未満のヴォイス・パフォーマンスを披露する等、良い意味で適当と言うか、細部まで精緻にデザインされたFloating Pointsの作品とは趣きを異にするリラックスした雰囲気がある。

便宜上9つのトラックに分かれてはいるものの、実質的にはM8までの長尺の1トラック+アウトロ的な小品のM9で構成されている。
先ず最初のクライマックスはM2の中盤で訪れる。
Pharoah Sandersのテナーの情感が増して、London Symphony Orchestraのストリングスと美しいハーモニーを現出させる。
2つ目はM6の中盤から後半に掛けて、London Symphony Orchestraが一気に前面に押し出て完全に主役となる瞬間。

M7終盤の激しく明滅し出すレトロなエレクトロニクス等の聴きどころはあるものの、Sam Shepherdは1鍵盤/エレクトロニクス奏者に徹している印象で、コンダクターとしての存在感は然程強くない。
Floating PointsのトラックにPharoah SandersLondon Symphony Orchestraが参加したといった感じはまるで無く、延々と同じピアノのフレーズを基盤に繰り広げられる3者が対等の立場の即興演奏で、その在り方は紛れも無くジャズそのものだ。
敢えて型に嵌めればジャズ・アンビエントといった趣で、喩えるとするなら2020年代の「In A Silent Way」といったところだろうか。