Lana Del Rey / Chemtrails Over The Country Club

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M6は未だトリップ・ホップ的と言えなくもないが、全般的にブラシや微細なパーカッションがテンポ・キープする曲が多く、スネア・ドラムの存在感は薄い。
人が言う程にはアメリカーナの印象は強くはないが、確実にフォーク化しているとは言え、どんどんと近年のCat Powerに接近していくようだ。
(Nikki Laneの歌声のせいかも知れないが、特にM9は「Wanderer」に雰囲気が良く似ている。)
或いは最終曲でカバーしているJoni Mitchellの名前を想起させたりもする。

兎に角一本調子で地味だが、前作「Norman Fucking Rockwell!」だってそれ程華やかだったとは言い難い。
然して独創的という訳ではないが、個々の楽曲のソングライティングの優秀性は相変わらず。
フックと呼ぶには余りにも自然で狙った感じは受けないが、彼女の書くメロディには不思議と引き込まれてしまう魅力が確かにある。

透き通ったと言うには少し掠れて、決して弱々しい訳ではないものの今にも消え入りそうなファルセットは、喩えるならばサーフェス・ノイズが混じったようで、低音とのコントラストは二重人格張りに鮮やかだ。 
声を張り上げて歌い上げられるよりも余程エモーショナルで、深淵な残響と相俟って、鳴った瞬間に空気を一変させるような凄味さえ感じる。

満場一致で絶賛された前作と較べると、メディアの評価はそこそこと言った感じで、やはり多くはリリックに拠っていたという事なのだろう。
白人ばかりと揶揄されたというジャケットのバイアスもあるのかも知れない。
個人的には前作よりも劣るとは思えない、と言うか少なくともソングライティングや歌唱に於いては凌駕する出来栄えに思える。