Sons Of Kemet / Black To The Future

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勝手にアフロ・キューバン的なサウンドを想像していたが、イメージに近かったのはホーンのユニゾンがラテンジャズ風のM3とM6くらいで、そのスタイルはもっと幅広い。
フリージャズ的、と言うのは流石に言い過ぎだが、アブストラクトな演奏に扇情的なスポークン・ワードが乗るM1は、単なるイントロと切り捨てるには些か尺が長過ぎる。
パーカッシヴでアフロビートのようなM2でもMoor Motherのラップ (?)がフィーチャーされており、冒頭から言葉を重視した作品である事が窺える。

D Double Eをフィーチャーしたトラックもあるが、ジャズとグライムの融合などという単純な代物ではまるでない。
寧ろフルートとサックスが短いフレーズの反復を積み上げる構造はミニマル・テクノ的でもあり、確かにクラブ・ミュージックの影響を感じさせるサウンドだが、Moses Boyedのようにあからさまではなく、もっとクールな印象を受ける。

多彩な奏法を駆使して確かなプレイヤビリティを聴かせるM7などの例外はあるものの、サックス・プレイヤーがリーダーを務めるバンドの割に、Nubya Garciaに較べても取り分けサックス・ソロに重きが置かれている感じはしない。
それどころかこのバンドで最も強固なサウンドシグニチャと言えるのは間違いなくベースの役割を担うチューバの音色で、近年のUKジャズの中では最も独創性を感じる。

複数のプロジェクトを並行するShabaka Hutchingsだけに、たまたまSons Of Kemetがそういうコンセプトだというだけかも知れないが、サックスはあくまで一パーツとして存在している印象で、2010年代以降のUKジャズの記念碑的コンピレーション「We Here Now」のディレクションを務めたのがShabaka Hutchingsだった事を想起すると、プレイヤーよりも寧ろプロデューサーとしての資質に長けているだろうという意味で、UKジャズに於けるMiles Davis的な存在だと言えるのではないだろうか。