Kid Cudi / Man On the Moon III: The Chosen

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今やエモラップの先駆者として扱われる事も多いKid Cudiだが、声のトーンのせいなのか、確かに滲み出す内省性や抒情性があり、凡百の単なるマンブル・ラッパーとは一線を画す貫禄がある。
個々のトラックは没個性な感じもするものの、ポップネスでは突出しており、例えばセンチメント漂うM12等はKendrick Lamar「Swimming Pools (Drank)」に通じるものがある。

何処からがヴァースで何処からがコーラスなのか容易に判別出来ないような展開や、途中でピッチアップしてベースラインが躍動するM4のような1トラック内の曲調の変化等の要素にはKanye Westとの「Kids See Ghosts」との連続性があるし、ゴシックな女声のループがディストピックで黙示録的なイメージを喚起するM8には何処となく「Yeezus」に通じるムードもある。

歌うようなラップ、と言うより最早積極的に歌っており、ラップにはおまけ程度の存在感しかないが、それほど嫌悪感が無いのはメロディに依るところが大きいように思う。
裏を返せば多くのエモ/マンブル・ラップの多くが好きになれないのは、歌うようにラップする割には肝心の歌=メロディが死ぬほど詰まらないせいだと思い至る。
少ない故にコーラスとの主従関係は逆転し、ラップがフックの役割を担っている点はAnderson .Paakとも共通している。

一方で、最近のトラップ・ベースのヒップホップの中では比較的一つ二つ上音のレイヤーが多い気もするとは言え、音色にもリズムにも特筆するようところは無く総じてトラックは凡庸。
2年前くらいまでは何とか楽しめたが、最早トラップ以降のヒップホップには停滞感しか感じない。
ここらで一つブレイクスルーが欲しいところではある。