Sault / Untitled (Black Is)

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ジャケットに表象されているように、「Untitled (Rise)」が祈りや祝祭のアルバムだとすれば、こちらは闘争や憂いのアルバムだと言ってみても然程外れてはいないだろう。
(尤も「Untitled (Rise)」のジャケットを見て合掌だと思うのは仏教文化圏の人間ならではかも知れないが。)
特にタイトルである「Don't Shoot Guns Down」のシュプレヒコールがアフロビートに乗せて平坦な声で繰り返されるM4は直接的にBLMを連想させる。

M12ではトラップ風のハイハットを導入する等、サウンド的には「Untitled (Rise)」に較べてより直接的にヒップホップ寄りで、Little Simz「Grey Area」に共通する感覚がある。
特に大仰な女声コーラスが印象的なM2には「Offence」に通じるエキセントリックなムードがあり、Little Simzのラップが乗っていないのが些か物足りなく感じられる程だ。

とは言えずっとファイティング・ポーズを取った作品かと言うとそういう訳でもない。
M3等はブリストル産のトリップ・ホップに近いし、ヒップホップ通過後のソウル=ネオ・ソウル的な意匠が目立つのも本作の特徴だと言える。
M16はトリップ・ホップ的であるのに加えてAirみたいなラウンジ感も漂うし、レイドバックしたオールド・スクールなソウルで終わる点は「Untitled (Rise)」と同様で、その音楽的なボキャブラリーの豊富さに関心させられる。

ヒップホップと並んで本作の重要なエレメントになっているのはアフロビートで、前述のM4の他にもMichael Kiwanukaを迎えたM9でも如何にもなアーシーなサウンドを聴かせている。
そもそもM1のアフリカン・チャントのようなイントロからして土着的だし、洗練された「Untitled (Rise)」との対比は鮮明で、2枚同時リリースにも充分な必然性が感じられる。