Jon Hopkins / Music For Psychedelic Therapy

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やはり益々Brian Enoをなぞるかのようだ。
本人は本作に於けるその影響をきっぱりと否定していたが、タイトルからしてオマージュだとしか思えないし、完全に無視出来るという意味でこれがアンビエントでなければ何がアンビエントだと言うのか。
もしも本人の言う通り、これがディープ・リスニングを意図して作られた作品だとするならば完全な失敗作に思えるが、機能性の面では非常に優秀なアンビエントではある。

実際にJon Hopkinsが滞在した洞窟での体験にインスパイアされた作品だという事で、「Welcome」と銘打たれたオープニング・トラックには確かに異世界にゆっくりと降りて行くような感覚がある。
現地でのフィールド・レコーディング+シンセ・レイヤーの構成が基盤になっているが、とても洞窟の中で採取されたマテリアルのみとは思えないその環境音の多彩さには純粋に驚かされる。

フィールド・レコーディング音源は然した加工も無くほぼそのままの形で使用されているように感じられるし、その上に被さるシンセの音色もまた余りに朴訥としていて耳への刺激には乏しい。
より率直に表現するならば在り来たりで新奇性に乏しく、ディープ・リスニングによって得られる愉しさが余りあるとは思えない。

メディテーションの為の音楽と銘打たれているのだから当然と言えばそれまでなのだが、それにしては結局、アルバムの中で最も耳を掴まれるのが「Immunity」や「Singularity」にもあったような、M9の普通のソング・ストラクチャを有したメロディックなピアノの音色だったりして、何処か中途半端な印象を禁じ得ない。