Moor Mother / Black Encyclopedia Of The Air

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取り敢えずヒップホップにカテゴライズされている印象があるが、歌ではない声が主役の音楽であるという点くらいしかその共通点・妥当性を見出せない。
確かに複数のラッパーがゲストに招かれているが然程存在感があるとは言えないし、Moor Motherの発声にラップと呼べる瞬間が全く無い訳ではないけれど、フロウやライミングに力点が置かれているとは思えない。

音色は基本的にエレクトロニックで、ビートはあるが非ダンス・ミュージックという意味ではIDMエレクトロニカ的で、アナログ・シンセや生音っぽいハットのジャジーな質感も相俟って、Jan JelinekやFlangerといったジャズとエレクトロニカを接合した音楽を思い起こさせる。
(最近だとEli Keszlerに近いものを感じる。)
強いて挙げるならジャズ・ポエトリーが最も近い印象で、現代のThe Last Poetsと呼びたくなる。

一方でM9のビートはUKガラージっぽくもあるし、電子音と器楽音と具象音が入り混じったコラージュ/ミュジーク・コンクレート的なトラックもあれば殆どノイズ・ミュージックのようなトラックもあり、一概にカテゴライズ不能という点で真の意味でのオルタナティヴ・ミュージックと呼ぶに相応しい。
(2021年に同様の感想を持ったのは他にTirzahだけだ。)

サウンドは多様だが、しかしアルバム全体としては凝集性や統一感を強く感じる。
些か分裂気味でさえあるトラック群を結合しているのは間違いなくMoor Motherのポエトリー・リーディング/スポークン・ワード/ラップで、決して心地の良い声ではないが、だからこそ確かに無視出来ない強度がある。