Nala Sinephro / Space 1.8

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冒頭から柔らかなモジュラー・シンセの音色に一瞬で引き込まれる。
その上で自由闊達に歌うような鳥の囀りとハープはまるでユートピアを描写するかのようだ。
ハープの旋律は少しエスニックな感覚も惹起し、笙にも似たシンセの響きと合わさってスピリチュアルであると同時に何処か雅楽のような幽玄さも漂わせている。

多くのトラックでサックスがフィーチャーされており、モジュラー・シンセが醸出するアンビエンスやその他のエレクトロニクスによる細やかなトリートメントと、トラディショナルなジャズの要素とのバランスに於いて、Floating PointsとPharoah Sandersの「Promises」に通じるものがある。
(長尺で静謐なM8は特に。)

ジャズ+アンビエントと言えば確かに解り易いタグ付けにはなるが、モジュラー・シンセが一つの基調を形成しているとは言え、M3のようにドラムが一際の存在感を放つ楽曲もあり、楽器構成は不定形で1曲の長さにも幅がある。
シンセの音響を取っても揺蕩うだけでなく、ウォブリーでけれども優雅で且つ実に愉しそうに踊り廻るような瞬間もありそれほど単純でも一様でもない。

良い意味で掴み所が無いと言うか、思い付くままにキャンバスに色を置いていくような非常に感覚的な印象があり、それでいて色彩感覚には確かに統一感があるのはデザイン・センスだとしか言いようがない。
それは確かに一見有り触れているようでありながら、良く見るとストレンジ且つ非常に洒脱なジャケットにも通じるような気もする。
世間的には圧倒的に「Promises」だったようだが、個人的には2021年のジャズ・アルバムで最も好きかも知れない。