FKA Twigs / Caprisongs

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感情を持たないミスティックな人形のようだったFKA Twigsが喜怒哀楽を獲得して人間になった、そんな妄想を掻き立てるミックス・テープ。
そしてそれは確かにArcaの足取と重なるものでもある。
正確には無かったのはメランコリア以外のエモーションと言うべきだろうが、ここには驚くべき事にJOYもFUNもある。

その印象を強固にしているのは、特にこれまでのFKA Twigsには希薄だったリズミックな要素だろう。
Pa Salieuを迎えたグライミーなM2を始めとして、全編を通じてレゲトンダンスホールのビートやUKドリルの踊るサブベースを援用して、少し儚さを湛えたM.I.A.といった趣きの新たな魅力を獲得している。

「正直死にたかった」というM17のセンセーショナルなリリックを殊更大きく取り上げたくはないが、確かに生の力強さがあり、背負っているものの大きさは違うかも知れないがBeyoncé「Lemonade」と同質の感動を呼び起こす。
盟友Arcaによるトラックがいつもよりも優しく寄り添うように感じられるのも胸に迫るものがある。

更にはFKA Twigs自身以外の声、特にShygirlやJorja Smithを始めとした女声の存在は殊の外重要に思える。
それはFKA Twigs、と言うよりもTahliah Debrett Barnettというジャケットに写る34歳の普通にお洒落な女性が決して一人ではない事を強調しているようで、孤独を感じさせた過去作に対して本作に他者に開かれた印象を齎している。
何せ曲間に配されたスキットでの彼女は声を上げて笑ってすらいるのだ。
この変化はアーティストとしてのキャリアに於いて非常に重要なものだろうと思うが故に、決してミックス・テープである事を言い訳して無かった事にはして欲しくない。
老婆心だが彼女にはいつの日心底ハッピーな作品を作って欲しいものだと思う。