Cate Le Bon / Pompeii

過度にフランジャーが掛かったクリア・トーンのギターのロウなストロークに、何処か不完全で歪なホーンが絶妙に気持ち悪いタイミングで挿入されるM1は、奇妙なミキシングのバランスがある種の不条理さを醸し出すという点でダブ的にも感じられる音像がSun Arawにも通じるようで、喩えるなら普通に歩けはするのだが、何処かがいつもと違うような、平衡感覚が麻痺して視界(聴覚だけど)が歪んだような感覚を惹起する。

朴訥としているが輪郭が際立ったグルーヴィなベースを基調として、そこに絡むのは件のギター以外にはキーボードやサックス等、使用されている音色だけで言えばSteely Danみたい、というの流石に言い過ぎだとしても、ヨット・ロックになっても可笑しくないところを、不思議と解り易い洗練とは程遠い音楽を現出させている。

エレクトロニクスに分類される要素は少なく、音色自体はフィジカルなのに現実感が極めて希薄で、シュールレアリスティックという印象に於いてTirzahと通じるものを感じる。
そしてその印象が、サウンドのどの部分に起因するのか明確に説明出来ない点でも良く似ている。
奇妙で不安定なシンセ・シーケンスや突拍子もないエフェクト等の音色の効果は勿論無くはないだろうが、その存在は散発的で曲の根幹には何ら関わっていないし、俯瞰すれば奇抜な音色のコレクションのようなアルバムではまるでない。

基幹にある歌やギターやベース、ブラスのどれを取っても個々にはフィジカルなのに、不思議な程にアンサンブルを感じさせない。
言い換えれば同じ場所で演奏されている光景を全く以って想像出来ない。
かと言ってそれが全ての楽曲に当て嵌まるかというとそういう訳でもなく、M4のようにブラスがディキシーランド・ジャズ宛ら高らか且つオーソドックスに鳴らされる楽曲もあり、一様でないのが更に厄介。
勿論ここでの厄介とは、即ち頗る面白いという事に他ならない。