Damon Albarn / The Nearer The Fountain, More Pure The Stream Flows

雅楽のようなオープニングは音色だけで言えばTim Heckerと聴き紛う程、と言うのは明らかに言い過ぎだとしても、アコースティック・ギターとヴォーカルが合流するとある種のアシッド・フォーク的なムードを醸出する。
M3はチープなリズム・ボックスのビートがGorillazにあっても良さそうだが、全体的にはそれなりに年輪を感じさせるサウンドが展開されている。
一方(神妙な面持ちは一応を伝わってくるものの)鼻に掛かった軽薄な歌声にサウンド相応の深みはゼロで、完全に声で損しているタイプの人だと思う。
(決して巧いとも思わないし、いっそ歌わなければ良いのに。)

ある時期からDamon Albarnと言えば、Tony Allenとの交流を含めアフリカン・ミュージックのイメージが定着しているが、本作ではルンバやタンゴ等のラテン・ミュージックやスタンダード・ジャズの要素が核になっており、やはり全盛期のBlurを起点とすると隔世の感があるが、思えばシューゲイザーやマッドチェスターの真似事に始まって現在に至るまで、Damon Albarnの表現の核心には常に盗用があるように思える。

ブリット・ポップ期にしても、英国の音楽的遺産という、ある意味でレア・グルーヴを掘り起こす作業だったとも言えるが、その引用元が現在ではアフリカやキューバやアルゼンチンに移り変わっただけのようにも思える。
当時はその節操の無さこそが正に嫌悪の対象だった訳だが、レベルは違うとしても自身も充分に節操の無い中年の音楽ファンになった現在では、この如何にも音楽マニアの作るポップスに半ば共感にも似た感覚すら覚える。
(若さが故の潔癖症だったのだろう。)

しかしただ単にレア・グルーヴを盗用して垂れ流すのとは違い、モダン・クラシカル的な意匠を組み合わせてポップに仕上げている点は評価に値する。
その姿はDamon Albarn程のレンジの広さは無いにせよ、パンクからスタートするも古き良きジャズやソウルをこよなく愛し、ハウス・ミュージックまでを咀嚼するPaul Wellerと何処か重なる部分がある。