Jenny Hval / Classic Objects

今から10年近く前、Julia Holterが「Loud City Song」でアンビエント/ドローンを裏切り大きくソフィスティケイテッド・ポップに舵を切った時には鮮烈な驚きがあったものだったが、しかし単純なセルアウトの一言では片付けられないそのエクスペリメンタル・ポップは大いに成功を収め、その後に続くフィメール・アーティストにとっての一つの指針となった感がある。

Jenny Hvalと言えば80’sポップのイメージがあった(何せ彼女はKate Bushの研究家でもある)が、本作もまた10年代にJulia Holterが切り開いた地平の上に立っている。
シンセサイザーは相変わらず重要な役割を果たしているものの、それよりも北欧ジャズ・シーンの精鋭達によるギターや生ドラム、何より多彩で雄弁なパーカッションがアクセントとなって、本作の印象を決定付けている。

プレーンで伸びやかな歌声と抑制の効いた上品なヴォーカリゼーションや霊妙なメロディには、何処かJulia Holterと共通する感覚がある。
寧ろソング・ライティングの巧妙さに於いてはJulia Holterを凌ぐと言っても過言ではなく、Burt Bacharach等という名前すら持ち出してみたくなる。

鮮烈だったLost Girlsの後では幾分地味な印象は否めないが、ノンビートに始まって徐々にビルドアップしてポップに昇華する展開に於いて両作は共通しているし、逆に複雑で洗練されたソング・ライティングの妙味という点では較べ物にならない。
頗るキャッチーだった「The Practice Of Love」と較べると即効性は無いかも知れないが、回を追う毎に滋味を増すような良作だと思う。