Eiko Ishibashi / Drive My Car Original Soundtrack

一聴して先ずいつも通りの石橋英子に安心感を覚える。
大きくは2つのコンポジションに異なるアレンジを施した計10曲で構成されているが、映画音楽に有りがちな、キャッチーなメイン・テーマを構成楽器を変えて繰り返すだけのものとは全く違い、それぞれが個々の楽曲としてしっかりと独立している。
歌が無いのは「Car And Freezer」のディスク2で既に経験済だし、シンガーとして魅力的なのは間違い無いが、歌の不在による物足りなさは微塵も無い。

歌=主旋律を失った石橋英子コンポジションを聴くと、改めてその複雑性に驚かされる。
豊潤な構成要素は断片的で各自の独立性が強く、ユニゾンが歌の代わりを果たすような瞬間は殆ど無い。
明確なメロディを持たず、フラグメントの集積がぼんやりと明るくも暗くもない独特のモード/ムードを醸出する様からは、何処かRei Harakamiのトラックを思い出す。

とは言えやはりサントラだけあって、いつもよりも音数はぐっと少な目ではある。
M7ではピアノさえ登場せず、フィールド・レコーディングと弦楽器の残響をマニュピレーションしたような持続音のみで構成されたアンビエント/ドローンといった趣きで、先ず映像ありきという制約が故に普段とは違う作風が聴けるのはサウンド・トラックならではの一興だと言えるだろう。

映画は未見だが、しっかりと音楽が映像に寄り添う様が有り有りと想像出来る。
海外で高く評価された日本映画という点では、Jim O’Rourkeの同名曲を用いた青山真治の「ユリイカ」を思い出すし、その映像喚起力から「The Visitor」を想起せずにはおれず、勿論それ以前から優れた音楽家であるのは間違いないが、それにしてもやはり長年に渡るJim O’Rourkeとの共同作業の成果に思いを馳せずにはいられない。