Kendrick Lamar / Mr. Morale & The Big Steppers

朴訥としたピアノの調べに不釣り合いな風切音のようなノイズが左右にパンニングされる冒頭から、突如高速ブレイクビーツに切り替わりストリングスが彩りを加えるM1は実にエキセントリック。
久々のFlying Lotusとのコラボレーションかと思ったがクレジットの何処にもその名前は無く、長年のパートナーであるSounwaveの手によるもののようだ。
(彼のある意味でスキゾフレニックなまでの引き出しの多さには毎度驚かされる。)

オーケストラとサブベースが淡々と4/4のビートを刻む中を、独白調のラップが潜行していくかと思えばいきなりMadlibやThe Alchemistを思わせるチリノイズ塗れのサンプリング・ループにスライドするM3もなかなかにトリッキー。
全編を通じてシアトリカルなピアノやストリングスが基調となっており、まさかLittle Simz & Infloのコンビのプロダクションに影響されでもしたのだろうか?
Little Simzの才能を逸早く賞賛したKendrick Lamarだけに全くあり得ない話ではない。

トラップのビートにGファンク風のチージーなシンセ・ストリングスが被さるM2は、トラックこそ凡庸ではある(狙っての事だとは思う)が、小節毎に声色とフロウを切り替えてキャラクターを使い分けるテクニックは相変わらず驚嘆もの。
バウンシーなビートにポップス調を組み合わせたM4等では、遂にと言うべきか最早完全に歌っており苦笑いするしかないが、アルバム全体で見れば多彩なヴォーカリゼーションのヴァリエーションの一部に過ぎず殊更気になる事も無い。

シームレスに紡がれる各トラックがやはり長編映画の場面展開でも観ているかのようで、毎度の事ながらそのストーリーテリング力には舌を巻かされる。
力作であるのは間違いないが、ただ流石に1時間超えともなると若干濃密過ぎて重たいと言うか、胃にもたれると言うか何と言うか。