Pusha T / It's Almost Dry

Pusha Tの作品をPharrell WilliamsKanye Westが半分ずつプロデュース、しかもJay-Zまでフィーチャーという、まるで名球会のオールスター・ゲームみたいな事になっているが、これが意外にも悪くない。
Pharrellが手掛けたトラックは、前面に配されたサブベースやシングル・ノートのシンセリフ、強拍に於けるリムショットの多用等の特徴が、嘗てClipseに提供されたビートを思い起こさせる。
(因みにM12ではMaliceを迎えてClipseが再結成、尤も解散したのかどうかは知らないけれども。)

一方のKanye Westは、M3の開き直ったかのようなDonny Hathaway版「Jealous Guy」の丸ごと使いを筆頭に、前作「Daytona」から引き続きある種の原点回帰的なサンプリング主体のプロダクションを継続しており、M7ではチップマンク的なヴォーカル・サンプル使いにも躊躇が無い。
M9ではLil Uzi Vertがテクニカルなシンギング・ラップを聴かせているし、トラップ風のハット連打が装飾的に使われている瞬間もあるが、総じて現在進行形のヒップホップとの共通項は希薄で、やはり2000年代中頃のモードが色濃い、と言っても古臭さを感じるかと言えばそうでもない。

そのPharrellやKanye、Clipseの最盛期に自分がヒップホップを存分に楽しめていたかと言うと正直そうでもなかったのだが、90’sのブーンバップとも違えばテン年代のトラップ以降とも違うサウンドが今では寧ろ新鮮に感じられたりもする。
余りにトラップ・ベースの時代が長く続き過ぎた事の反動もあるだろう。

何故かリヴァイヴァルの対象となり得るのは90年代が最後だと思い込んでいたようなところがあったが、昨今のUKロックに於けるポスト・パンク・リヴァイヴァルにもある意味ではゼロ年代回帰と思える傾向がある訳で、2000年代のヒップホップに再び脚光が当たったとしても然程不思議ではないのかも知れない。
個人的にもトラップでさえなければ最早何でも良いようなモードになっている。