Kelly Lee Owens / LP.8

「Inner Song」の抑制が効きつつも享楽的なテクノとは随分作風が違う。
本人をしてThrobbing GristleEnyaの融合と言ったとか言わないとか。
確かに即物的なノイズで組み立てられたかのようなビートはインダストリアルと言っても過言ではなく、冗長性の面でも「20 Jazz Funk Greats」と通じるものはある。

Enyaの部分に関してはまぁ女声によるアンビエントの比喩表現程度に捉えるのが妥当なのだろうとは思う。
大いに歌っているM4やM8では言わんとする事も解らんではないが、特に後者のそのプレーンな歌声はJapanese Breakfastなんかを彷彿とさせ、荘厳と言うより寧ろ可憐でドリーミーなイメージを喚起させる。

コンセプト程奇怪なサウンドではまるでなく、インダストリアル・プラス・女声によるアンビエンスと聞いて連想する通りで受ける印象は至ってノーマル、悪く言えば中庸。
流しっ放しにしている分には何らの引っ掛かりも無く、そのあり様はやはり仲間のJon Hopkinsの「Music For Psychedelic Therapy」に通じるものがある。

Kelly Lee OwensにしろJon Hopkinsにしろ、ダンス・ビートを捨象した途端に面白味が薄れてしまうのはノンビートやアンビエントの難しさを物語っているようにも思える
(尤も本作は基本的にビートを伴っているのでアンビエントとは言えないが)。
それを考えるとOPNはやっぱり凄いと思わされるし、幾ら魅力的なビートが満載の「Crush」の方が好きだとは言っても、Floating Points「Elaenia」の驚異的な精巧さには無視出来ない強度があった。
大胆な展開や音色自体の面白さ、或いは細部への創意工夫といった点がどうも自分のアンビエントの評価軸になっているようで、それってアンビエント本来のコンセプトを真っ向から否定してようなものじゃないかと思いつつ、Brian Enoだって最早そんな事に拘泥しているとは思えないからまぁ良しとしよう。