Sault / Air

シンフォニックな要素はLittle Simz「Sometimes I Might Be Introvert」を特徴付けていた(M6の冒頭は同作のオープニングと酷似している)事もあり、それ自体は驚く程の事ではないが、幾らEP的な位置付けとは言え全編に渡ってビートレスで、最早真正の交響楽としか呼びようがないサウンドが展開されているのは大胆不敵極まりない
(ビートどころかCleo Solの出番さえ疎らで、それだけにM5の後半等、数少ない出番が効果的なフックになっている)。

本当にオーケストラからクワイアまで、全てのアレンジをInflo1人で熟しているのか、或いは誰かコラボレイターが居るのだろうか?
何にせよ愈々謎は深まるばかりだが、このまま行けばInfloはいつか映画音楽でもやるのではないだろうか。
いや、ひょっとしたらもうやっているのかも。

それらの変化を受けてSaultのドラスティックな方向転換だと論じているレビューを目にしたが、果たしてそうなのだろうか?
確かにこれ程の乖離は始めてだし、これまでで最もクローズドな作品であるのは間違い無い。 
一方でこれまでも例えば「Untitled (Black Is)」ならアフロ・ビート、「Untitled (Rise)」ならスムーズ・ソウルやジャズ・ファンク、「Nine」ならサイケデリック・ロックやベース・ミュージックといった風に、緩やかではあるがアルバム毎に異なる特定のジャンルをテーマに設定するような傾向があったのも確か。
言い換えればInfloの驚異的に多様な音楽的引き出しが、一つ一つ小出しに開けられていくような感覚があった。

そう考えると今回開いた引き出しが、たまたまこれまでとは離れた場所にあっただけで、 Saultがクラシックに鞍替えしたというような話では全くない気がする。
何にせよ早く次の引き出しを覗くのが楽しみで、ラストのM7では古琴風の音色が中国伝統音楽のテイストを醸し出しているのを鑑みると、次はアフリカ以外の例えばインド音楽ガムラン等のエスニック・ミュージックが飛び出すのだろうかとか、想像するだけでわくわくさせられる。