Beth Orton / Weather Alive

シンセや多彩な器楽音の残響が織り成す豊潤なアンビエンスよって、トリップ・ホップ的なムードを湛えたフォーク・ミュージックという印象はLana Del Reyにも通じる。
一方でSons Of Kemet / The SmileのTom Skinnerのブラシ・ワークが全編に渡ってジャズの要素を加えており、特にグルーヴィで軽妙なM3等にはJenny Hvalが北欧ジャズ人脈を招聘して制作した「Classic Objects」に似た感覚がある。

同時に反復を基調としたコンポジションポスト・ロック的でもあり、そう言えば過去にはJim O'Rourkeのプロデュース作もあった事が想起させられる。
緩やかにではあるがピアノが基軸を担っている点や、そのある種のアンチ・クライマックス性に於いて、メロディ・センスや歌声の質感は全く違えど石橋 英子の作品に近い感覚を惹起させられる。

微かに掠れ揺らぎのあるアルトの歌声はMarianne Faithfullを一回り若返らさせたような感じで、主役として位相の真ん中にどっしりと配置されているが、かと言って多彩で豊潤な器楽音を蔑ろにするような事はなく、適度にバランスを保ったミキシングが施されており、Beth Ortonが単なるシンガーではない事を物語っている。

全編を覆う揺蕩うようなシンセ・アンビエンスは基本慎ましいが、時折嘗てのフォークトロニカの面影を偲ばせるようにユニークな電子音が散りばめられている。
特にM8の最後で聴ける畝るシンセの独奏は奇妙であると同時に非常に心地良く、後ろ髪を引かれるような余韻を残しながらアルバムが終わるのもまた一興。