Bill Callahan / YTI⅃AƎЯ

アルバムはいつものように朴訥なアコースティック・ギターの爪弾きで幕を開けるが、途中から登場するエレクトリック・ギターのストロークで些か様子が変わる。
そのロウなエレクトリック・ギターの音色はアルバム全編に渡って存在感を放っており、力強いスネア・ドラムも加わって相対的にノイジーで、嘗てなくロック色の強い作品に仕上がっている。

ヒプノティックな反復ビートにアグレッシヴなオルガンが乗っかったM4は宛らクラウトロック(と言うかCan)とThe Doorsみたいなサイケデリック・ロックが混じったようだし、何時にも増して陽気で軽快なM9のカントリー・ロックはまるで70年代のThe Rolling Stonesが酔っ払ったかのようでもある
(70年代のThe Rolling Stonesは薬でラリっていた訳だから、比喩表現としては成り立たないのだけれど)。

但しここでのロックは即ちシンプリシティを意味してはおらず、音響的にはヒスノイズやフィードバックやスライド・ギターの残響が全編に渡ってドローン的に作用して複雑性を生み出しているし、女声コーラスやバリトン・サックスから子供の声に至るまでの器楽音や装飾音はいつも以上に多彩になっている。

録音はクリアで各音の輪郭が明瞭にミキシングされているが、それでいて盟友Bonnie Prince Billy「I Made A Place」のように洗練を追い求めたという感じでもなく、寧ろラフで自由奔放な演奏やM3のエレクトリック・ギターの弦を擦ったようなノイズを始めとしたSEに漂う手作り感がいつにも増してローファイな印象を齎している。