Dawn Richard And Spencer Zahn / Pigments

取り敢えずDawn Richardによるジャズ・ヴォーカル・アルバムと呼んでみたとしても強ち的外れだとは思わないが、かと言ってジャズ・ヴォーカルと聞いて連想する、例えばBillie Holidayのようなものとも全く様相は異なる。
寧ろここでのジャズとはMiles Davis「In A Silent Way」や、最近だとFloating PointsとPharoah Sandersの共作に連なる類のものだ。

それらの作品に共通する感覚を一言で表現するならば、要するにアンビエントという事になるが、かと言ってアンビエントを採り入れた有りがちなオルタナR&Bとは似ても似つかない。
ヴォーカル物としてはちょっと他に類する作品が思い当たらず、ドラスティックな新しさがあるとまでは言えないものの、絶妙な塩梅のオリジナリティが確かにある。

と言うかそもそもDawn Richardの歌声は、クラリネットやサックス、チェロやヴィブラフォンにギターといった多彩な器楽音とエレクトロニクスが織り成す幻想的で幽玄な音像に完全に溶け込んでいる。
その有様は実に周縁的で且つ散発的で、ヴォーカル・アルバムという感じは殆どしない。

その印象は敢えてヴォーカルとその他の器楽音の位相を塗したミキシングによって補強されているように思える。
Spencer Zahnという人の事は良く知らないが、マルチ・インストゥルメンタリストでありプロデューサーでもある彼が、Dawn Richardの歌声をマテリアルの一つとして構築したジャズ・アンビエント作品というのが最も的確なのかも知れない。