Gold Panda / The Work

親になった事の影響を感じさせるエレクトロニック・ダンス・ミュージックと言えば真っ先にAphex Twin「Syro」が思い起こされるが、同作はRichard D. Jamesという(少なくともパブリック・イメージの上では)性格の捻じ曲がった人間が子供を育てるという経験を経て、真人間、と言うか成熟した大人へと成長を遂げる様を捉えたドキュメントとして深い感動を呼び起こした。

一方で元々朗らかだったGold Panda = Derwin Schleckerが親となって初のアルバムである本作の場合は、これまでの作品と較べても不自然に思える程に抑制されたムードが興味深い。
メロディは相変わらずセンチメンタルだが、ユーフォリアは皆無で、沈鬱とまではいかないものの何処かペーソスを感じさせる。

ダウンテンポ主体という点では前作「Good Luck And Do Your Best」から引き続きではあるが、輪を掛けてダンス・ミュージックとしての機能性は稀薄になっており、唯一ディープ・ハウス調のM5を除いてはフロア・ユース向きと言えるトラックは全く無い。
ビート自体の音圧も弱目でボトムが薄いという点で、よりIDMエレクトロニカ的なリスニング・テクノの色合いが強まった感がある。

日本の子守唄には短調が多く、世界中の子守唄を見ても一般的にその音域は狭いらしい。
というような事を想起すると、本作はひょっとすると子供を持ったDerwin Schlecker自身の心象を反映したものというより、直接的に子供の為に作られた音楽、或いは決して幸福なだけではない育児という仕事 =「The Work」のサウンド・トラックなのかも知れない。