Arooj Aftab / Night Reign

幽玄なムードのジャズ・ヴォーカルものという点ではファンクやアフロ・ビートの無いMeshell Ndegeocello「The Omnichord Real Book」のようで、パーカッシヴで明確なリズムを伴っているという意味ではアンビエントでこそないが、生ドラムの存在感が希薄でアルバム全体を覆う浮遊感がDawn Richard And Spencer Zahn「Pigments」を連想させるし、更にフォーク的な要素はBrittany Howard「What Now」の一部の楽曲にも通じる。

パキスタンという出自からネオ・スーフィーにカテゴライズされる事もあるようで、確かにタブラやウードの音色がエスニック・フォーク的なイメージを喚起する楽曲も中にはあるが、決してそれを前面に押し出した作品ではなくちょっとしたアクセント程度に留まっているという点で思慮深さを感じさせる音楽である。

楽曲毎に編成は全く異なり、エスニックな音色に限らず全ての音が等しく周縁的で、リード楽器と呼べる中心を欠いているように感じられる点はシンガー兼コンポーザーならではのユニークさだと言える。
と言っても勿論中心には歌があるのだが、それよりも寧ろ器楽演奏 − M2後半のハープとホルンのアンサンブルやM3で奔放に跳ね回るようなフェンダー・ローズ等 − に煌めきを感じる瞬間が多い。

位相の中央にどっしりと居座る歌のせいでせっかくの芳醇な器楽演奏が聴き取り辛く埋もれてしまっているような印象を受ける。
勿論こちらの拙い聴取能力にも問題はあるだろうが、歌がポップネスの阻害要因になっているという意味で近年のBjörkの作品に感じるのと同じようなフラストレーションを覚え、些か勿体無いような気はしてしまう。