Meshell Ndegeocello / The Omnichord Real Book

ジャズやファンク、アフリカン・フォークやアフロ・ビートの要素に加えて、シンセやクワイアによるアンビエンスを時に過剰なエフェクトで混濁させたような音像はある種ダブ的で、グルーヴィでアーシーであるにも関わらず同時に全編を通じて幻想的な浮遊感が漂っている。
徹底して取り留めの無い歌の存在感も含め、あそこまでアブストラクトではないにせよDawn Richard「Pigments」に通じる感覚があり、特にM3やM4等にはついついジャズ・アンビエントという言葉を使いたくなる。

90年代から活躍する大ベテランにも関わらず、例えばサウス・ロンドン・ジャズと比べても全く古臭さが無いどころかフューチャリスティックでさえある。
更には卓越したテクニックを持つベース・プレイヤー且つシンガーでもありながら、シンセ・ベースの多用や多彩なゲスト・ヴォーカルの起用等、演奏や歌に拘泥する様子は微塵も無く、果てにはアコースティックな器楽音が全く登場しない楽曲もあり、狭義のジャズやファンクだけでは全く収まらない。

18曲で1時間15分近くと非常に長大なアルバムだが、P-Funk直系のファンクあり浮遊感溢れるフュージョンありと多様性に富んでおり全く飽きさせない。
加えてM8やM14等のフォーキーな楽曲やM9のメロウなソウル・ナンバーに於けるリリシズムも素晴らしく、普通は収録時間の長さがウィーク・ポイントになる事の方が多いと思うが、本作の長さは多面的な魅力を余す事無く伝える為に必要だと確信を持って断言出来る。

M12等はUKのアフロ・ビーツとは全く異なるアプローチでアフロ・ビートをアップデートするかのようで、元々アフロセントリックなイメージがある人ではあるが、「アフリカ」がポップ・ミュージックに於けるキーワードとして急浮上している現在、改めて時代がMeshell Ndegeocelloにリンクしたような感慨が湧き起こる。
本人は至ってマイペースなのだろうが、カルト・フォローでは勿体無い、絶対に今聴くべき作品だと思う。