2011-01-01から1年間の記事一覧

Rustie / Glass Swords

これもまたシンセサイザーが主役の音楽だが、最近のシンセポップに顕著であるらしいチルアウト感覚とは異なり、Rustieのサウンドは些か躁的ですらある。ヴァース/コーラス/ブレイクが目まぐるしく入れ替わる展開は奔放で忙しなく、絶えず耳の奥を刺激する…

Martyn / Ghost People

冒頭のEmeraldsにも通じるようなコズミックなシンセ・サウンドが、2562「Fever」に於ける「Winamp Melodrama」の場合と同様に、Martynもまた2年前とは異なる場所に居る事を宣言している。 特徴的だったダビーなベースラインは消え失せ、多少変則的ではあるが…

Joker / The Vision

このブリストルのギャングスタが作るトラックを他の凡百の(ポスト・)ダブステップから差別化しているのは、ヒップホップとR&Bからの色濃い影響だろう。 TR-808を思い出させる過剰なキックの音圧やダブステップにしてはダウンビートの強調が少ないリズム等…

Mute Beat / The Best Of Mute Beat

他の国のレゲエ需要というのは実のところ良く分からないが、少なくとも日本に於いてヤンキー文化として以外のある種スタイリッシュなレゲエ・ミュージック需要が成立しているように思えるその背景には、Mute Beatというバンドの存在の影響が大きいのではない…

Fennesz + Sakamoto / Flumina

コラボレーション作品に於ける各参画者が発する音の関係性は、各々の要素の力関係が流動的ではあっても全体的には均衡して聴こえるケースと、何れかが何れかの要素に対して伴奏の様に従属するケースとの二つに大別出来ると思う。 同じくFenneszが参加した作…

Sly Mongoose / Wrong Colors

Phewは「自分の無意識からはろくなものは出てこない」と言っていたが、それはDerek Baileyに端を発する即興に於けるイディオマティック/非イディオマティックの議論の根幹を成す発想であるように思える。 即興演奏の現場に於ける無意識は殆どの場合、その主…

Little Tempo / 太陽の花嫁

東京に住んでいると、あのバンドのあの人は何処其処でバイトしているらしい、とか言った話は至る所で耳にするが、世界有数の規模のポップ・ミュージックのマーケットを有するこの国に於いてさえ音楽のみを生業として生活する事が如何に稀有で特権的な行為で…

Wiley / 100% Publishing

Dizzee Rascalが半ばフェードアウトしたかに見える現在も尚、一人旺盛にグライムを背負い続けるWileyの久々のBig Dadaからのリリースは、これまで交互に繰り返されてきたポップ志向とハードコア路線とがバランス良く共存した内容になっている。ハードコア路…

Samiyam / Sam Baker's Album

LAのLow End Theory界隈の、Flying Lotusを旗印としたシーンから出てくるサウンドには、とうとう現在に至るまでこれと言った新しい呼称が与えられていない。 時に没個性に「エクスペリメンタル・ヒップホップ」とか、或いは単純に「LAビート(シーン)」と呼…

Beastie Boys / Hot Sauce Committee Part Two

まさかのR.E.M.の突然の解散には勿論大変なショックを受けたが、最終作となった「Collapse Into Now」のキャリアを総括するような内容を鑑みると、それも腑に落ちると言うか、当然もう一度ライヴは観たかったし、口惜しさを払拭出来はしないのだが、アイデア…

Red Hot Chili Peppers / I'm With You

Red Hot Chili Peppersのキャリアに於いてギタリストの交代がサウンド面でのターニング・ポイントになってきたのは紛れも無い事実だと思う。 Dave Navarroを擁した「One Hot Minute」は今やキャリア最低の駄作のような扱いを受けているが、ディストーション…

Stephen Malkmus And The Jicks / Mirror Traffic

2008年のフジロックでStephen Malkmusのライヴを一緒に観ていた人は、ステージ終了後、実に怪訝そうな表情をして、「何かこの人(演奏)下手じゃない…?」と呟いた。 それから2年後のサマーソニックに出演したPavementの演奏は、Stephen Malkmusのソロよりは…

Toddla T / Watch Me Dance

昨年のNinja Tuneのイベントで Roots Manuvaのサポートとして同行していたToddla Tを観た際には レゲエ/ダンスホールのリズムを用いた硬質なビートと チープでユーモアに富んだ上物の組合せに 何とも底知れない珍妙さを感じたものだったが 本作のサウンドは…

Ford & Lopatin / Channel Pressure

Oneohtrix Point Neverによるチルウェイヴと聞いて想像する音楽からの乖離は意外に少なく、「Returnal」の「Nil Admirari」に対応するようなタイトル通りのスカムなコラージュから始まるアルバムには何処か諧謔性や冗談臭さが漂っている。 ただ同じように80…

Hotflush Recordings / Back And 4th

テクノ/ハウス寄りのポスト・ダブステップを牽引する3つのレーベル、ScubaのHotflush、Ramadanman=Pearson Soundが運営に関わるHessle Audio、そしてUntoldのHemlockには、主催者自身がシーンの先駆的なプロデューサーである事の他に、その全員が2009年にP…

Zomby / Dedication

多くのポスト・ダブステッパー達が盛んにレイヴ・カルチャーの熱狂へと回帰するように見える中、Zombyは依然としてBurialの教えを忠実に堅持しているように思える。 それは「レイヴ・カルチャーへのレクイエム」と称されたBurialのサウンドから、「レクイエ…

Sbtrkt / Sbtrkt

Dam-Funk以来のインパクト大な顔ジャケの割に、Sbtrktのサウンドは拍子抜けするくらい洗練されている(決してDam-Funkが洗練されていないという事ではない)が、元々はあの懐かしいウェスト・ロンドン/ブロークン・ビーツのシーンで活動していた人だと知っ…

Boxcutter / The Dissolve

本作を聴いた後、過去のBoxcutterの音楽がどんな風だったか思い出せなくなり、2008年のPlanet-Muのコンピレーションを聴いたら、意外にもダブステップらしいダブステップで少し吃驚した。 とは言え当時、確かにそのサウンドは異端だった筈で、それから3年後…

Falty DL / You Stand Uncertain

多様性が売りのポスト・ダブステップの中にあって取分け幅を利かせているのがフューチャー・ガラージというスタイルらしく、何処ら辺が「フューチャー」なのかは今一判然としないが、メロウでハウシーなフィーリングの2ステップ回帰を指すものだと、一応個人…

Panda Bear / Tomboy

Panda Bearのソング・ライティング能力とその突出したパーソナリティを持った声が、Animal Collectiveがポップ・フィールドで現在の地位を獲得する上で最大の武器となった事は間違い無い。 本作ではAnimal Collectiveのどの作品にも増して、その声が前面に押…

2562 / Fever

今にして思えば、UKガラージのミュータントとして生まれたダブステップが様々なスタイルへと拡散する契機には、2562やMartynやScubaらによるテクノとの接合があったのではないかという気がする。 またそれらのサウンドが、PinchやKode9らオリジナル・ダブス…

Gang Gang Dance / Eye Contact

やはりPanda Bear「Person Pitch」、そしてAnimal Collective「Merriweather Post Pavilion」を契機としてポップ志向がブルックリンを覆っているという事なのだろうか。 Gang Gang Danceのエキゾティシズムには何処かジョークと言うか記号めいた印象があった…

Battles / Gloss Drop

90年代後半のポップ・ミュージックが歴史上最も尖っていた瞬間、つまりはエレクトロニカとポスト・ロックに多大な影響を受けた立場からすると、「Mirrored」はその延長線上で興奮出来たという点で、00年代というレトロなディケイドにおける殆ど唯一の希望で…

Thurston Moore / Demolished Thoughts

少なくとも表層的な部分でSonic Youthのアヴァンギャルド面を担ってきたのは、Thurston MooreでもLee RanaldoでもなくKim Gordonでなかったかと思う、というのは各々のソロワークや課外活動から抱いた印象であるが、その旺盛な実験精神に拘らず、決してポッ…

大石 始, 吉本 秀純 / Glocal Beats

00年代も後半に差し掛かろうという時期に、数年間の空白を経て自分が再び現在進行形のポップ・ミュージックを聴き始めた頃、巷は非西欧圏由来のビートで賑っていた。 ブラジルのバイリ・ファンキを始めプエルトリコのレゲトン、アルゼンチンを中心としたデジ…

Radiohead / The King Of Limbs

前作「In Rainbows」が、Radioheadにしては幅広い曲調を持った、ある種「OK Computer」以降の集大成的な内容だっただけに、長きに渡る彼等の冒険にも一区切りが付いて、今後は大御所らしく落ち着いてしまうのではという予想もしたものの、どうやら本作で早く…

Daedelus / Bespoke

作品毎にスタイルがころころと変わるミュージシャンというのは決して少なくないが、Radioheadが良い例であるように、彼等の多くは熱心なポップ・リスナーであり、スタイルの取捨の背景には時々のトレンドからの影響が透けて見える場合が多い。Daedelusのスタ…

野田 努 / もしもパンクがなかったら

佐々木敦がポップ・ミュージックを見限ってFaderが終わった後 気が付くと傍らに残っていたのはRemixと野田努の文章だった。 そこには目から鱗が落ちるような 音に纏わる示唆に富んだ思考の冒険こそ無かった代わりに生活者の視点があり それは革新無き、ムー…

Planet-Mu / 14 Tracks From Planet Mu

自分が初めてまともにダブステップに触れたのはPlanet-Muのコンピレーションだった。 その意味で今にして思えばMike Paradinasの「方向転換」は自分にとって結構重要な出来事だった。その後のHyperdubの5周年コンピレーションが、様々な方向へと拡散しつつあ…

Prefuse 73 / The Only She Chapters

近年のLAやグラスゴーを中心とした新しいビート・バブルとでも呼べそうな状況の中で、何処かGuillermo Scott Herrenには冷遇を受けているような印象がある。 テクノ以降のエレクトロニック・ミュージックとヒップホップの接合において、彼は紛う方無き先駆者…