2022-01-01から1年間の記事一覧

Kaitlyn Aurelia Smith / Let's Turn It Into Sound

まるでMax Tundraのようなイントロでポップに振り切れたかと思わせておきながら、やはりその内容は一筋縄ではいかない。M1の曲調は宛らテレビのチャンネルをザッピングするかの如く(喩えが古いか)ころころと変わり、且つその其々が潔いまでに分断されてお…

Beth Orton / Weather Alive

シンセや多彩な器楽音の残響が織り成す豊潤なアンビエンスよって、トリップ・ホップ的なムードを湛えたフォーク・ミュージックという印象はLana Del Reyにも通じる。一方でSons Of Kemet / The SmileのTom Skinnerのブラシ・ワークが全編に渡ってジャズの要…

Yeah Yeah Yeahs / Cool It Down

Perfume Geniusをゲストに迎えたM1と、続くM2に於けるシンセを基調にした他愛の無いアンビエント・ポップはSharon Van Ettenなんかに通じる。狭義のポスト・パンクをイメージして臨んだだけに、些か拍子抜けする感はあったが、M3〜M5では一転して圧の強いド…

Makaya McCraven / In These Times

ハープにシタール、ヴィブラフォンを配したM1やM4等はBadbadnotgood、またはBuild An ArkやYesterdays New Quintetに通じる幽玄なスピリチュアル・ジャズで、或いはBonoboのジャズ路線にも通じるロマンティシズムを湛えている。ドラム・マシンのスネア音を組…

Pixies / Doggerel

Kim Dealが居ないPixiesに今一つ興味が湧かなかったのと、メディアからの評価が押し並べて低かったのとで、再結成以降のアルバムには一切手を出してこなかったが、久々の快作という事なのか、これが中々どうして悪くない。流石に「Surfer Rosa」や「Doolittl…

Santigold / Spirituals

ラヴァーズ・ロックとドリーム・ポップを掛け合わせたようなM1は拍子抜けする程牧歌的で、一先ず意外性のあるオープニングだとは言える。ニューウェイヴィなM3で漸くM.I.A.のエピゴーネンというイメージ通りの脱力ラップが聴けるが、続くM4は再びレイドバッ…

Shygirl / Nymph

トラップの影響を受けたグライムという意味でのUKドリルとオルタナティヴR&B、更にはUKベース・ミュージックとハイパー・ポップの混合体のようなサウンドで、ArcaやKingdomの関与からもFKA TwigsやKelelaの系譜と考えて差し支えないように思えるが、ビートは…

The Mars Volta / The Mars Volta

初めて本作を聴いたのが、本当にたまたまSteely Danの本(「Reelin' In The Years」)を読んでいた正にその最中だったので、その変わりように尚更吃驚した。本人達の念頭にあったのはThe Style Councilだそうだが、変拍子もディストーションも皆無のブルー・…

Björk / Fossora

ガバと聞いてダンス・ミュージックを期待してしまった自分が甘かった。ダンス・フロアに戻ってユナイトを叫ぶ程Björkは真っ当な人ではない(良い意味で)。確かに嘗てなく激しいビートが全編に渡って展開されており、M1後半やタイトル曲のM12に於ける重厚感…

Alex G / God Save The Animals

名前から(Sandy)が取れて心機一転という事なのか、初のスタジオ録音らしいがこれが吉と出ているとは正面切っては言い切れない。ピッチ・シフターによる声の変調やリバース・ディレイは変わらず多様されているし、辛うじてM5はブレイクビーツ的ではあるものの…

Sampa The Great / As Above, So Below

どうやらパンデミック下の母国ザンビアへの帰郷が契機となったらしく、Sampa The Greatのアイデンティティであるアフリカ音楽の要素が満載の作品となった。全編を通じてアフリカン・ドラムやカリンバ、Fela Kutiを想起させるホーンといった音色が基調を成し…

Suede / Autofiction

最近Elasticaの1stを聴き返したら偉く良かったので、次はPulp「Different Class」を聴いてみたりして、要するに個人的にブリット・ポップ再評価が湧き起こっている。その流れでDamon Albarnの前のJustine Frischmannの恋人がBrett Andersonだったのを思い出…

Hudson Mohawke / Cry Sugar

代名詞とも言えるプリセットのようなシンセ音は相変わらずだが、Kanye Westのお株を奪うかのようなソウル/ゴスペルのヴォーカル・チョップや、寧ろRustieのイメージに近いアンセミックなシンセ・リフが満載で、「Butter」では聴かれなかった大仰なストリン…

Jockstrap / I Love You Jennifer B

冒頭ではSharon Van EttenかGirlpoolのようなフォーク・ロックとシンセ・ポップの間の子かと思わせておきながら、更にはEDMやハイパー・ポップ、チェンバー・ポップをも掛け合わせたような音楽で、エクレクティックを極めている。或いはLana Del Reyのサッド…

Sault / Air

シンフォニックな要素はLittle Simz「Sometimes I Might Be Introvert」を特徴付けていた(M6の冒頭は同作のオープニングと酷似している)事もあり、それ自体は驚く程の事ではないが、幾らEP的な位置付けとは言え全編に渡ってビートレスで、最早真正の交響楽…

JID / The Forever Story

元々トラックを重視する傾向がある自分にとっては、ラップ自体のスキルやオリジナリティは副次的な評価軸でしかない事が多いのだが、流石にこの尋常でないラップには瞠目せざるを得ない。その凄味はKendrick Lamarを遙かに凌駕するように思える程で、お陰で…

Syd / Broken Hearts Club

失恋がテーマという事前情報から、Beck「Sea Change」みたいなアコースティック・アルバムになっていたらどうしようかと恐々としながら聴いたが、極めてドライで冷んやりとした肌理に特徴があった「Fin」より多少ウェットになった嫌いは無くはないけれど、予…

Kenny Beats / Louie

Vince Staplesとの仕事から、オーセンティックなサンプリング・ワークとトラップ・ビートとを良い塩梅に組み合わせた手法の印象があったが、初のソロ・アルバムとなる本作ではもっと幅広い音楽性を披露している。各トラックをシームレスに繋いだ構成はミック…

Danger Mouse & Black Thought / Cheat Codes

埃を被ったソウルにオルガンを多用したサイケデリック・ロックやエスニックな要素を調合したレトロな音像が如何にもDanger Mouseらしい。ロック系の仕事が多い人だけに、相変わらず良くも悪くも没個性なBlack Thoughtのラップと併せて聴く事で、ヒップホップ…

Megan Thee Stallion / Traumazine

ビートは基本的にシンプルなトラップだが、シンセ・アンビエンスは希薄で余計なメランコリーは無い。特段スキルフルとまでは思わないが歯切れの良いラップはマンブル/シンギング・ラップとは対照的で、総じてエモラップ特有の鬱陶しさが無い分好感は持てる…

Lizzo / Special

The Knack「My Sharona」のベース・ラインを借用したと思しきM4やMichael Jackson風のM8は、ゲート・リヴァーブ的なドラムの音響と言い、標榜している事が大して違うとは思えないのにThe Weekndに対してはどうしても拭えない胡散臭さを微塵も感じさせず、只…

Steve Lacy / Gemini Rights

デモテープのように簡素だった「Apollo XXI」よりも多少音色が豊かで賑やかになり、引き出しが増えたような印象がある。従来のギターに加えてピアノが中心的な役割を担う場面も増えており、ボサノヴァ調のM3等ではホーン・セクションも鮮やかな存在感を放っ…

Haai / Baby, We're Ascending

M2やM3のシューゲイズ・テクノ調からThe Fieldを思い出す。横溢するロマンティシズムはM11で共作しているJon Hopkinsにも通じるが、享楽的なブレイクやヴォイス・チョップ等が時にアッパーで、ダンス・ミュージックとしての機能性に於いてはJon Hopkinsを軽…

Red Hot Chili Peppers / Unlimited Love

John Fruscianteが出て行こうが帰って来ようが何も変わらない。正直言ってもう飽き飽き。世間の評価程には「Californication」が良いとは今でも思えないが、最初からメロウ路線が気に入らなかった訳でもない。歌物としての成熟と洗練を極めた「By The Way」…

Denzel Curry / Melt My Eyez See Your Future

確かに期待したものとは違う、寧ろ正反対だと言っても良いかも知れない程だが、Robert Glasperのピアノを擁したM1のジャジー・ヒップホップはまるで「Things Fall Apart」の頃のThe Rootsのようで頗る良い。Saul WilliamsをフィーチャーしたM6なんかにはネオ…

Beyoncé / Renaissance

まるで良質のハウスDJのミックスを体験しているかのように、何度も何度も繰り返し昂揚感が押し寄せる。レゲトン風を基調にディスコ調を織り混ぜつつシームレスに進む前半は、M6のディープ・ハウスで最初のピークを迎え、The Cartersを踏襲するようなヒップホ…

Black Midi / Hellfire

ロック・ミュージックではBattles「Mirrored」以来の衝撃かも知れない。Bad Brainsのハードコアのスピード感とノイジーさ、Tyondai Braxtonに通じるクラシック/現代音楽にMahavishnu Orchestraのようなフュージョンから、ラテン、カントリー、フォルクロー…

Conway The Machine / God Don't Make Mistakes

リリース元こそEminemのShadyだが、1小節を繰り返すミニマルでアブストラクトなサンプリング・ループや徹底してオフビートのフロウは、ウェスト・コーストのギャングスタ・ラップよりも寧ろ90’s中期〜後期の東海岸のハードコア・ヒップホップ/マフィオソ・…

Ravyn Lenae / Hypnos

ウェルメイド過ぎないという意味で、M5への参加を始め幾つかのトラックではプロデューサーとしてもクレジットされているSteve Lacyとも共振するインディR&B。Fousheéというシンガーをフィーチャーしている点も「Gemini Rights」と共通しており、Steve Lacyを…

Perfume Genius / Ugly Season

笙のような音色が雅楽のような音像を現出させるM1やM2はチェンバー・ポップを通り越してモダン・クラシカル、と言うかTim Hecker「Konoyo」に接近するかのようだ。或いはフルートを中心に構成されたBjörk「Utopia」にも通じるようでもあるし、M5のピアノ曲は…