Stacy Gueraseva / Def Jam, Inc.

ポップ・ミュージックに関する書物の中でも、伝記物、取分け特定のアーティストやバンドについての自伝的な内容のものよりも、あるシーンやレーベルを取り扱ったものに面白さを感じる事が多い。
主題に関わった人物が多岐に渡る程、結果として立ち現れる物語は多面的になるし、何よりもその時代その場所の狂騒や熱気が臨場感を以て伝わってくる。

「American Hardcore」や「Check The Technique」に描かれた数々のエピソードは、陳腐な青春小説よりも余程洒脱で気が利いていただけに、殆ど初めて商業的な大成功を収めたヒップホップ・レーベルであるDef Jamの黎明期や黄金期はさぞかし心躍るエピソードで横溢しているのだろうと期待して読んだ本書だったが、その物語は何処か辛く切ない。

Rick RubinとRussell Simmonsの蜜月は余りに短く、一般的にイメージするDef Jamの黄金時代に既にその崩壊は始まっていて、Jay-Zが社長に就任する頃には凡そ原形を留めていない。
レーベルを巡る人間関係は険悪この上無く、登場人物は僅かなスタッフを除いて皆気紛れなエゴイストとして描かれている。
Slick Rickは狂人でLL Cool Jは女々しいナードで、Beastie Boysは頭の悪いクソガキだ。
Chuck Dは比較的理知的な人物として描かれているのがせめてもの救いか。)

それらはある面ではDef Jamの真実であるのだろうが、だからこそ尚更に巻末に掲載された、中年になったRussell SimmonsやLL Cool Jが、ばっちりスーツを着込み満面の笑顔で写った集合写真は何とも空々しく、後味が悪くて仕方無い。