Squarepusher / Shobaleader One: D'demonstrator

こういう作品に触れるとDavid Lynchの「The Straight Story」という映画を思い出す。
鬼才による毒気の無い物語や音楽には、いつも得も言われぬ違和感を覚え、逆説的な悪意の表現ではないかと邪推する事で何とか自分を安心させたい気分に駆られる。

メロウなR&Bを媒介にして、ヘヴィメタルをルーツに持つ敏腕プレイヤー達と出会って云々というエピソードは如何にもTom Jenkinsonらしく破天荒ではあるけれども、肝心のサウンドにエクストリームな部分はまるで無い。

ポスト・プロダクションにおけるエレクトロニクスやヴォコーダーで何とかSquarepusherの、そしてWarp Recordsの作品としての体裁を保ってはいるものの、Tom Jenkinsonによるバンド・サウンドに誰もが期待するであろう、狂ったような高速スラップ・ベースや過剰なビートやノイズ等は全く聴かれず、牧歌的なR&BとAORのミクスチャー(メタルは確かに無くはないが)が冗長に続く。

長年のファンからの本作に対するネガティヴなリアクションにはある程度共感出来るが、それでも自分が比較的本作をそれ程嫌いになれないのはTom Jenkinsonのメロディ・センスが個人的に好みである事の他に、シンセサイザーと(控え目ではあるが)スラップ・ベースの組合せが醸すフュージョン臭さが、何処か幼少期に負ったYMOのヤング・トラウマを弄られるような感覚があるからかも知れない(どうでも良いが運動会の徒競走で必ず「Rydeen」が流れていたのは自分が通っていた小学校だけだろうか)。

こういう作品をして「丸くなった」などと揶揄するのは容易いけれど、この作品がSquarepusherにとってのエポック・メイキングになるような真剣味は些かも感じられないし、そう言えばDavid Lynchが「The Straight Story」の後に撮ったのはキャリアの集大成のような「Mulholland Dr.」なのだった。

そんな訳で自分のTom Jenkinsonへの信頼は今のところ揺らいでいない。