Moor Mother / The Great Bailout

Mary Lattimoreのハープとヴァイオリンに高らかで透き通った女声ヴォーカルが重なるオープニングは、Dawn Richard And Spencer Zahn「Pigments」にも通じる霊妙なジャズ・アンビエントだが、Lonnie Holleyのユニークな歌声とMoor Motherのスポークン・ワードが入ってきた途端に異物感と不穏な空気が充満する。

くぐもったエレクトリック・ピアノの音色がTirzah「Trip9love...???」に通じるM3ではトラップのようなビートも登場するが、前作「Jazz Codes」に較べると確かにビートの存在感は希薄で、相対的にアンビエントの要素が強い作品だとは言える。
但しその語が喚起するイメージとは相反する不穏さがアルバム全体を覆っており、「大いなる救済」等何処にも見当たらない。

何時にも増してMoor Motherのスポークン・ワード以外の声の要素が多いのも本作の特徴で、ハミングから呻き声に近いものまでと多岐に渡っている。
それらの集積として顕れるサウンド・スケープは、まるで降霊術で集められた無数に蠢く黒人奴隷の亡霊の怨念の塊を聴いているかのようだ。

Moor Motherの口から吐かれるヨーロッパに対する糾弾や呪いの言葉からも、本作がポエティックなアルバムなのは間違いなく、欧米の評価が自分が知る限りMoor Motherの作品としては過去一高いように見受けられるのもそのようなコンテクストに多くを負っているように思える。
言語が障壁になってその価値を充分には解せていないところはあるが、M4のドローンは宛らSunn O)))のようだし、無作為に打たれるサブベースと生々しいノイズがまるで動物の捕食の様子を描いたような壮絶なイメージを喚起するM5等、サウンドも充分に刺激的ではある。